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ミュージアム研究|開館30年を超えても年間20万人以上を集める「多摩六都科学館」の運営モデル

5 日前
読了時間: 11分

更新日:3 日前


今回は、東京都西東京市にある「多摩六都科学館」を訪問しました。


これまで多くの美術館・博物館・科学館を訪問してきましたが、実は今回の多摩六都科学館は、ミュージアム研究を始めてから初めて知った施設です。


調べてみると、1994年に開館した歴史ある科学館で、年間利用者数はピーク時に約25.4万人。2024年度も約22.1万人が利用していることが分かりました。


開館から30年以上が経過し、最寄りの西武新宿線「花小金井駅」から徒歩約18分と、決して駅前立地ではない施設が、なぜこれだけの集客力を維持できるのでしょうか。


今回は実際に施設を訪問し、展示内容や来館者の様子を観察するとともに、運営の仕組みについても調べてみました。


1.多摩六都科学館について

多摩六都科学館は、1994年3月に開館した体験型科学館です。


東京都の小平市、東村山市、清瀬市、東久留米市、西東京市の5市が共同で運営しており、科学教育や生涯学習の拠点として整備されました。


「六都」という名称は、当初の構成自治体が6市だったことに由来します。2001年に田無市と保谷市が合併し、西東京市となったことで、現在は5市による共同運営となっています。


施設の最大の特徴は、世界最大級のプラネタリウムです。

直径27.5mのドーム「サイエンスエッグ」では、約1億4,000万個の星を投映できる光学式プラネタリウム「CHIRONⅡ」を備えています。


また、常設展示は次の5つのテーマで構成されています。

  • チャレンジの部屋:光、物理、宇宙などの科学

  • からだの部屋:人間の身体や感覚の仕組み

  • しくみの部屋:機械、電気、社会の仕組み

  • 自然の部屋:身近な生き物や自然環境

  • 地球の部屋:地質、岩石、化石、地球の歴史


特徴的なのは、展示を見るだけではなく、自分で操作したり、身体を動かしたりしながら科学に触れられることです。


年間利用者数は20万~25万人規模

公式資料によると、2016年度に年間利用者約25.4万人を記録し、当時の過去最高を更新しています。


2024年度の年間利用者数は221,432人で、個人利用が約88%、団体利用が約12%でした。

学校教育との連携が強い科学館ですが、実際には一般利用者が大部分を占めています。


また、2024年12月には開館以来の累計利用者数が500万人を突破しています。


施設の運営は乃村工藝社

もう一つ興味深いのが、施設の運営体制です。


2012年からは、展示空間の企画・設計・施工などを手掛ける株式会社乃村工藝社が指定管理者として運営しています。2013年には常設展示をリニューアルしました。


同社の資料によると、展示設計者と指定管理者が同じ企業である強みを活かし、現場スタッフの意見を企画・デザインに反映する方法が採用されています。


単に展示を制作して終わりではなく、利用者の反応を踏まえながら改善できる仕組みです。

この運営体制も、今回の訪問で注目したポイントの一つです。


2.フィールドワーク


① 科学を学ぶというより、科学で遊ぶ施設

実際に訪問してみると、建物には30年以上の歴史を感じます。

科学館自体もそれほど大きな施設ではありません。


一方で、館内にはさまざまな体験型展示が配置されており、子どもたちが楽しそうに遊んでいる姿が印象的でした。


例えば、月面歩行を疑似体験できる「ムーンウォーカー」、リニアモーターカーの走行装置、竜巻を発生させる装置、ペダルをこいで電気を作る発電バイクなどです。


特に、実際に動くリニアモーターカーや竜巻の装置は、大人が見ていても面白い展示でした。


また、ジャングルジムのように身体を動かして遊べるスペースもあります。


以前訪問した大和市文化創造拠点シリウスの子ども向け遊び場にも、少し近い印象を受けました。


ここで感じたのは、科学を体系的に学習する施設というよりも、科学をテーマにした遊び道具が数多く用意されている施設だということです。


子どもにとっては、難しい科学の知識を覚えることよりも、まず自分で操作して遊ぶことが楽しい。


その体験が科学への興味につながっていくのでしょう。


② 学校団体だけでなく、さまざまな利用者がいる

訪問したのは平日でしたが、小学校の団体が多く来館していました。

館内には団体向けの学習スペースもあり、学校教育との連携が強いことが分かります。


一方で、若いカップルや、カフェでゆっくり過ごしている女性たちの姿も見られました。

興味深かったのは、子どもが体験装置で遊んでいる間、保護者が近くの自然展示を読んでいる場面です。


子どもは遊びを楽しみ、親は展示から知識を得る。

同じ場所でも、それぞれの楽しみ方が成立しているように感じました。


ミュージアムショップにも、化石や鉱石、科学関連グッズ、キャラクター商品などが幅広く並んでいます。


実際の売上は分かりませんが、こうしたショップやカフェも、家族が半日滞在するための重要な要素なのでしょう。


③ スタッフとボランティアの存在

もう一つ印象に残ったのは、スタッフが多いことです。

若いスタッフから年配の方まで、さまざまな年代の方が館内で活動していました。


特に、年配の方が知恵の輪のような遊び道具を使いながら、子どもたちに説明しているコーナーが印象的でした。


調べてみると、多摩六都科学館には2000年から続くボランティア制度があり、2026年7月現在、一般112人、ジュニア26人の計138人が登録されています。


展示室での来館者との交流、科学実験、工作、自然観察会など、幅広い活動を行っています。


当日見かけた方がボランティアかどうかは確認していませんが、このような人的なサポートが、施設の魅力につながっていると感じました。


展示装置そのものだけでなく、人が関わることで、遊びを学びへとつなげている点も興味深いところです。


④ 最大の魅力はプラネタリウムと大型映像

今回、最も印象に残ったのは大型映像「VOYAGER/ボイジャー 終わりなき旅」でした。


1977年に打ち上げられた無人惑星探査機ボイジャーが、太陽系の惑星を探査し、その先の宇宙へと旅を続ける物語です。


直径27.5mの巨大ドームに映し出される宇宙の映像は迫力があり、非常に感動しました。

特に印象に残ったのは、人類が送り出した探査機が、今も地球から遠く離れた宇宙を旅し続けていることです。


仮に遠い未来に地球や人類が存在しなくなっても、人間が存在したという痕跡を、宇宙の彼方へ運び続ける。


そのようなことを考えさせられました。

単に宇宙の知識を学ぶだけでなく、人間の存在そのものについて考える時間にもなりました。


また、プラネタリウムや大型映像が始まる時間設定も良かったと感じます。

常設展示を一通り見て、少し疲れたり、飽きたりする頃に上映が始まるため、自然に気分転換ができます。


実際に上映後、周囲の来館者からも「良かった」という声が聞こえてきました。

自由に遊ぶ時間と、座って映像を楽しむ時間。


この組み合わせが、半日程度の滞在を充実させていると感じました。


3.強みと他のミュージアムとの比較

① 開館30年以上でも、展示を活用し続けられる仕組み

多摩六都科学館の常設展示には、比較的古いものも見られます。


しかし、科学の基本原理は短期間で変わるものではありません。

例えば、発電や重力、光の性質、機械の動作原理などは、展示装置が古くなっても学習内容そのものが陳腐化しにくい分野です。


そのため、必ずしも最新のデジタル機器を大量に導入する必要はありません。

一方で、常設展示だけでは何度も来館する理由が弱くなります。


そこで多摩六都科学館では、春・夏の企画展、実験教室、プラネタリウムの番組更新などを行っています。


2026年春には「石のイロイロ」、夏には国立科学博物館との巡回展「キモかわすごい!海の骨なしどうぶつの世界」を開催しました。


夏の企画展には44日間で74,069人が来場しています。

長期間使える常設展示を基盤に、企画展やイベントで変化を加える。


この仕組みが、継続的な集客を支えていると考えられます。


② 民間企業による運営と地域ボランティア

もう一つの特徴が、乃村工藝社による指定管理と、地域ボランティアの組み合わせです。

一般的な公立博物館では、学芸員による専門的な調査研究や展示企画が重要な役割を担います。


多摩六都科学館では、それに加えて、展示空間の設計や運営を専門とする民間企業が関わっています。


企画展だけでなく、利用者が楽しめる空間づくり、展示の改善、体験プログラムの企画なども重要な仕事です。


また、地域のボランティアが長年活動しており、スタッフと連携しながら科学教育を支えています。


ボランティア制度は乃村工藝社による運営開始以前から存在するため、現在の集客力を民間企業だけの成果と捉えることはできません。


むしろ、行政、民間企業、科学館スタッフ、地域ボランティアが、それぞれの役割を担っていることが特徴ではないでしょうか。


③ 他のミュージアムとの年間来館者数比較

年間20万人以上という利用者数は、他のミュージアムと比較すると、どの程度の規模なのでしょうか。


これまで訪問した施設や、比較対象となる科学館の2024年度の実績を調べてみました。

施設名

2024年度年間利用者数

府中市郷土の森博物館

約31.0万人

かわさき宙と緑の科学館

約24.5万人

多摩六都科学館

約22.1万人

浜松科学館

約21.4万人

千葉県立中央博物館(本館)

約9.8万人

※各施設の公式年報・事業報告・評価資料より。施設によって集計基準が異なり、府中市郷土の森博物館は屋外エリアの利用を含み、浜松科学館は講座等を含む総利用者数です。厳密な施設間ランキングではなく、年間の利用規模を把握するための参考比較です。


この数字を見ると、多摩六都科学館は、かわさき宙と緑の科学館や浜松科学館と近い集客規模にあることが分かります。


また、千葉県立中央博物館(本館)と比較すると、約2.3倍の利用者規模です。

特に興味深いのは、浜松科学館です。


実は浜松科学館も、乃村工藝社が共同事業体の一員として指定管理者を務めており、多摩六都科学館と近い利用者規模になっています。


ただし、来館者数は立地条件、施設面積、料金、施設の機能によって大きく変わります。

例えば、自然史研究や資料収集を重視する博物館と、体験型展示による一般利用を重視する

科学館では、来館者数だけで運営成果を比較することはできません。


それでも、駅から離れ、開館から30年以上が経過した多摩六都科学館が、年間20万人以上の利用者を維持していることは、注目に値する実績だと思います。


その背景にある学校連携、体験型展示、プラネタリウム、企画展、民間企業による運営などの仕組みは、他の公共ミュージアムにとっても参考になるのではないでしょうか。


④ 家族で半日楽しめる価格設定

そして、今回の施設の大きな強みだと思ったのが、料金です。


2026年10月現在、常設展示の入館料は大人520円、4歳から高校生まで210円です。

大人2人、子ども2人の家族4人で利用した場合、次の料金になります。

利用内容

家族4人

常設展示のみ

1,460円

展示+プラネタリウムまたは大型映像1回

2,920円

展示+プラネタリウム+大型映像

3,980円

3歳以下は無料です。


これだけ多くの体験装置を利用でき、半日程度楽しめることを考えると、非常に利用しやすい料金設定だと思います。


また、構成5市の在住・在勤・在学者には、年間フリーパスの割引制度もあります。

地域住民が繰り返し利用する仕組みとしても、興味深い取り組みです。


4.まとめ|科学を学ぶだけではない、家族で半日楽しめる場所

今回、多摩六都科学館を訪問して感じたのは、子どもから大人まで、気軽に半日を楽しめる施設だということです。


建物や展示装置には歴史を感じるものの、子どもたちは楽しそうに遊び、保護者は展示を読んだり、カフェで休憩したりしながら時間を過ごしています。


また、プラネタリウムや大型映像では、大人も子どもも一緒に感動できる体験が提供されています。


ここで重要なのは、一般的な娯楽施設との違いです。

遊園地で遊ぶことも楽しいですが、科学館では子どもが楽しみながら科学に触れられます。

保護者にとっても、単に遊ばせるだけでなく、子どもの教育にもつながったという満足感が得られるのではないでしょうか。


多摩六都科学館の強みは、最新設備や展示の規模ではなく、「遊び」と「学び」を両立させる体験設計と、それを継続的に支える運営の仕組みにあると感じました。


今後も施設の老朽化や設備更新という課題はありますが、地域の学校・住民、民間企業、ボランティアが協力しながら、どのように施設の魅力を維持していくのか注目したいと思います。


入館料も比較的手頃で、家族連れはもちろん、大人だけでも楽しめる施設です。

もし機会があれば、一度訪問してみてはいかがでしょうか。


施設情報

多摩六都科学館

  • 所在地:東京都西東京市芝久保町5-10-64

  • 開館時間:9:30~17:00

  • 休館日:原則月曜日、祝日の翌日など

  • 公式サイト:https://www.tamarokuto.or.jp/

※料金・プログラムは変更される場合があります。訪問前に公式サイトでご確認ください。


アートテックコンサルティングについて

ArtTech Consulting(アートテックコンサルティング)では、IT・事業開発・アートの知見を組み合わせ、新しい価値を生み出すための企画・戦略設計に取り組んでいます。


また、美術館・博物館などの文化施設や芸術祭を実際に訪問し、展示・運営・デジタル活用・地域連携などの視点から調査・研究を行っています。


本ブログでは「ミュージアム研究」「ArtTechトレンド」などを通じて、アート・文化とビジネスの接点について発信しています。


参考資料

※2026年10月27日の現地訪問および公開資料をもとに作成。

 
 
 

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