ArtTechトレンド|博物館DXの推進事例―MuseumDXから考える文化施設のデジタル活用
更新日:9月7日

今回は、大阪市で取り組まれているMuseumDX(博物館DX)の事例「デジタル大阪ミュージアムズ」をご紹介します。

美術館・博物館のDXというと、収蔵品のデジタルアーカイブ化やVR展示などがイメージされやすいですが、この事例を調べてみると、単に文化資源をデジタル化するだけではなく、「作ったデジタル資源をどのように使ってもらうか」「補助事業終了後もどう継続していくか」まで考えられている点が特徴的でした。
複数の博物館・美術館が参加
「デジタル大阪ミュージアムズ」は、大阪市博物館機構が運営する6つの博物館・美術館を中心に進められています。
参加しているのは、
大阪市立美術館
大阪市立自然史博物館
大阪市立東洋陶磁美術館
大阪市立科学館
大阪歴史博物館
大阪中之島美術館
です。
これら6館が所蔵する資料は、合わせて200万点以上にのぼります。
一方で、各館では扱う資料の種類や管理方法が異なり、収蔵品管理システムも統一されていませんでした。
そこで、すべてのシステムを無理に統一するのではなく、既存の仕組みを生かしながら、各館の収蔵品を横断的に検索・閲覧できる仕組みが構築されました。
Innovate MUSEUMを活用したMuseumDX
この取り組みには、文化庁の「Innovate MUSEUM事業」が活用されています。
Innovate MUSEUMは、博物館資料のデジタルアーカイブ化や公開、業務DX、人材育成など、これからの博物館に求められる機能強化を支援する事業です。
大阪市では2023年度にMuseumDX推進事業として採択され、3,200万円の補助を受けて基盤を構築しました。
興味深いのは、最初から大規模な統一システムを目指さなかったことです。
成果報告会では、
既存の収蔵品管理システムを活用すること
そして、
メタデータを完全に統一するという「理想」より、実際に運用できる「現実」を優先すること
が紹介されています。
MuseumDXというと新しいシステムを導入することに目が向きがちですが、既存業務との接続や運用負荷まで考えた設計が行われている点は、ITプロジェクトとしても参考になる事例です。
「大阪の宝」をデジタルで楽しむ
実際に公開されている「デジタル大阪ミュージアムズ」には、大きく二つの機能があります。
一つが、6館の収蔵品を横断して検索できる「大阪コレクションズ・アーカイブ」。
もう一つが、200万点以上の収蔵品から選ばれた120点を紹介する「大阪の宝」です。
「大阪の宝」では、作品や資料そのものを掲載するだけではありません。
都市大阪の魅力を、
「市民の力」「都市の力」「未来への力」「芸術の力」「風土の力」
という視点から整理し、それぞれの資料が持つストーリーとともに紹介しています。
さらに「バーチャル体験展示室」では、高精細画像だけでなく、アニメーション、音声解説、3Dデータ、AR、拡大表示など、資料の特徴に応じて異なるデジタル表現が使われています。
例えば国宝「油滴天目茶碗」やクジラの骨格標本をARで表示するなど、「デジタル化すること」ではなく、「デジタルだから可能になる鑑賞方法」が試されています。

2026年7月にはジャパンサーチとも連携し、「大阪の宝」がより広いプラットフォームから検索できるようになっています。
リアルの博物館とWebをつなぐ
もう一つ注目したいのが、リアルの博物館とデジタルを分離していないことです。
リアル展示やイベントとWebサイトを連動させ、館内から二次元コードなどを通じてデジタルコンテンツへアクセスする仕組みも活用されています。
つまり、
Webを見る → 博物館へ行く
だけではなく、
博物館で作品を見る → Webで詳しく調べる → また別の作品を発見する
という循環をつくろうとしています。
実際に学校教育での活用事例も生まれています。
大阪府立たまがわ高等支援学校では、生徒が「大阪の宝」から作品を選び、鑑賞、模写、デジタル制作を行い、さらに作品ページへのQRコードを使ってリアルとデジタルを組み合わせた鑑賞を行っています。
Webサイトへのアクセスは国内だけにとどまらず、成果報告では海外からの利用も確認されており、文化資源の国際発信という点でもデジタル化の効果が表れています。
ポイントは「デジタル化した後」
この取り組みで特に興味深かったのは、デジタルアーカイブを作ること自体をゴールにしていないことです。
2023年度にInnovate MUSEUMを使って基盤を構築した後、2024年度は同事業に採択されませんでした。
しかし事業は終了せず、別の予算を活用するとともに、当初から運用負荷を抑えた設計としていたことで継続することができました。
さらに2025年度以降は、新しい機能を大量に追加するというより、
「自走+利用促進」
に重点を移しています。
リアル展示との連動、解説動画、学校教育での利用、国内外への情報発信など、「作ったデータをどう使ってもらうか」へプロジェクトのフェーズが変わっているのです。
ここはMuseumDXを考える上で重要なポイントだと思います。
MuseumDXにはプロジェクト推進が重要
美術館・博物館のDXでは、
「収蔵品をデジタル化する」
「Webサイトを作る」
「VRやAIを導入する」
といった技術面に目が向きがちです。
しかし複数の施設が参加するプロジェクトでは、それ以上に、
何を実現したいのかを整理すること
異なる施設や関係者の意見をまとめること
既存システムとの役割分担を設計すること
学芸員など現場の業務負荷を増やさないこと
補助事業終了後の運用まで考えること
が重要になります。
つまりMuseumDXは、ITだけの問題ではありません。
文化資源 × 人材 × 業務設計 × 利用者体験 × IT
を組み合わせた、プロジェクト全体の設計が求められます。
ArtTech Consultingとして
ArtTech Consultingでは、美術館・博物館をはじめとする文化施設におけるDXや、新しい文化施設のあり方について継続的に研究しています。
最新技術を導入することだけを目的とするのではなく、
「文化資源をどのように社会へ開いていくのか」
そして、
「その仕組みを継続して運営していくためには、どのような設計が必要なのか」
という視点から、国内のさまざまな事例を調査しています。
今回の「デジタル大阪ミュージアムズ」は、1つの博物館に留まらず、大阪市の博物館が連携することで、大阪の文化的価値を広く発信していく良いきっかけになったのではないでしょうか。
【参考資料】
2026年7月10日 Innovate MUSEUM事業 成果報告会
ミュージアム活性化実行委員会 釋 知恵子氏
(大阪市博物館機構 経営企画課)
文化庁 公開資料
ArtTech Consultingでは、美術館・文化施設におけるDX、AI活用、サービス企画についてご相談いただけます。



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