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ミュージアム研究|川崎市の新ミュージアム構想―市民参加型ワークショップから考える

9月1日
読了時間: 8分

更新日:9月7日


川崎市で進められている「新たなミュージアム」の検討プロジェクトについて、今回は市民参加型ワークショップ「ミュージアム・市民ミーティング」を取り上げたいと思います。


川崎市民ミュージアムは、令和元年東日本台風により大きな被害を受け、従来の施設での活動継続が難しくなりました。その後、川崎市では新たなミュージアムの整備に向けた検討が進められており、その過程で市民の声を集めるためのワークショップが複数回開催されています。


私も2023年10月と2025年7月に開催されたワークショップに参加しました。今回はその参加経験をもとに、ワークショップの運営面で良かった点、十分ではないと感じた点、そして今後さらに良くするための改善案について整理してみたいと思います。


市民がミュージアムを考える場

2023年10月に開催されたワークショップのテーマは、「『あったらいいな!』と思う未来のミュージアムを語り合おう!」というものでした。


参加者は30名程度で、川崎市のエリアごとに5名ほどのグループに分かれ、「新しい美術館はどんなものがよいのか?」について意見を出し合いました。会場には模造紙や付箋が用意されており、参加者が思いついたアイデアを付箋に書き出し、それを模造紙に貼りながら議論を広げていく形式でした。



子連れで楽しめる場所、学びの機会がある場所、さらには「泊まれる美術館」のような固定観念を壊すアイデアも出ていました。また、他のグループにも参加してアイデアを加える時間があり、さまざまな年齢や経験を持つ参加者の発想に触れることができた点が印象的でした。


一方、2025年7月に開催されたワークショップのテーマは、「『やってみたいこと』から組み立てる」というものでした。


前回は地域ごとに分かれて議論する形式でしたが、今回は参加者自身が現在活動している分野、もしくは興味のある分野ごとにグループが分けられていました。私はアート関連のグループに参加しました。他のメンバーには、建築家、川崎市民ミュージアムでボランティアをされていた方、美術関連の仕事をされている方などがいて、前回よりも専門的な議論ができたように感じます。


この回では、「ミュージアム+α」の場所、あるいは「道の駅化」のように、美術館が特別な日にだけ訪れる場所ではなく、普段使いされ、学びや交流が生まれる場所になるイメージが話し合われました。また、ハロウィンなどの季節イベントや、生田緑地ばら苑を意識した撮影会など、地域資源と結びつけたアイデアも出ていました。


良かった点

まず良かった点は、ワークショップが土日に開催されていたことです。


市役所の業務は平日中心のイメージがありますが、こうした市民参加の場を土日に設けることで、平日に仕事をしている人も参加しやすくなります。私自身も土日開催だったからこそ参加しやすく、市民の声を幅広く集めようとする姿勢が感じられました。


次に、基本計画の段階から複数回にわたって市民との対話の場が設けられている点も良いと感じました。ホームページ上に意見箱を設置するだけでなく、実際に人が集まり、顔を合わせながら意見を出し合うことで、新たなミュージアムを「自分ごと」として考えるきっかけになっていました。


また、ワークショップの運営に専門のファシリテーターが入っていた点も大きいと思います。参加者が自由に意見を出しながらも、時間内に議論を整理し、発表まで持っていくためには、一定の運営ノウハウが必要です。その意味で、専門業者が関わることで、全体の進行はかなりスムーズだったと感じました。


さらに、大学との連携も重要です。専修大学とのコラボレーションにより、大学生が参加していたことは、若い世代の視点を取り入れるうえで大きな意味があったと思います。美術館やミュージアムは、どうしても年齢層が高めの来館者に偏りがちです。その中で、若い世代がどのような場所なら行きたいと思うのかを考えることは、今後の施設づくりにおいて欠かせない視点です。


また、参加対象が川崎市在住者だけに限定されていなかった点も良かったと思います。市内在住・在勤・在学に加えて、市内で活動している人も参加できる形になっていたため、私のように東京都民であっても、川崎市との関わりがあれば参加することができました。実際、参加者の中には川崎市外から参加している方もいました。


十分ではないと感じた点

一方で、十分ではないと感じた点もあります。


まず、参加者層や発言力によって議論の方向が左右されやすい点です。このような自治体のワークショップに参加する人は、芸術や文化に関心が高い方、あるいは独自の意見を持った方が比較的多い印象があります。そうした声はもちろん重要ですが、発言力の強い人の意見が議論全体に大きく影響する場合もあります。


特に、新たなミュージアムには、普段あまり美術館に行かない一般市民にも来てもらう必要があります。そのため、関心の高い人だけでなく、まだミュージアムとの接点が少ない人の声をどう拾うかが課題になると感じました。


次に、短時間の議論ではアイデアの深掘りに限界がある点です。ワークショップでは、3時間という時間をかけて意見を出し合いますが、グループ分け、説明、議論、まとめ、発表まで含めると、1つ1つのアイデアを深く検討する時間は限られます。


そのため、出てくる意見はどうしても「思いつき」に近いものになりやすい面があります。もちろん、まず数多くのアイデアを出すことは大切です。しかし、それをどのように具体化するのか、実現可能性はどうか、誰にとって必要なのか、といった深掘りまでは十分に行いにくいと感じました。


もう1つの課題は、参加していない市民への情報共有と意見収集です。


ワークショップの内容は、川崎市のホームページやYouTubeなどで公開されており、参加できなかった人も一部内容を確認できるようになっています。また、「新たなミュージアムについてのご意見箱」も設けられています。


ただし、これらは市のホームページを自分から見に行く必要があります。つまり、もともと関心のある人には届きやすい一方で、積極的に情報を探していない人には届きにくい仕組みです。市民の声をより広く集めるには、もう少し情報の届け方に工夫が必要だと感じました。


改善案として考えたこと

改善案としては、まずAIの活用が考えられます。


AIを使えば、ワークショップの議論内容を整理したり、似た意見を分類したり、出てきたアイデアを可視化したりすることができます。また、海外や国内のミュージアムの成功事例を事前にリサーチし、それを参加者に共有したうえで議論を始めることも有効だと思います。

特に、大学生チームなどがAIを活用して事前調査を行い、「他の地域ではこういう取組がある」「若い世代はこういう使い方をしている」といった情報を持ち込めば、参加者の発想もさらに広がるのではないでしょうか。


次に、他のチームの議論内容を振り返る時間を設けることも有効です。私が参加した際、前回までの議論内容は会場内に掲示されていましたが、それを1つ1つ確認したり説明を受けたりする時間はあまりありませんでした。せっかく過去の議論があるのであれば、それを参加者全体で共有し、今回の議論に接続する時間があると、より発展的な話し合いになると思います。


さらに、ワークショップの内容をインフォグラフィック化して発信する方法も考えられます。文章だけで議論内容を公開しても、関心のない人にはなかなか読まれません。しかし、写真や図解を使って「どのような意見が出たのか」「新しいミュージアムにどのようなニーズがあるのか」をわかりやすく示せば、参加していない市民にも届きやすくなります。


実際に、ワークショップで撮影した写真をもとにインフォグラフィックを作成してみると、開催概要、ワークショップの進め方、出てきたニーズ、キーワード、年間イベントのイメージなどを一枚で整理することができました。さらに、そこに意見箱へのQRコードを付ければ、見た人がすぐに意見を送れる導線も作れます。


(画像データから生成AIにて作成したインフォグラフィック)


これは、単に情報を発信するだけでなく、市民参加を次のアクションにつなげる仕組みになると思います。


まとめ

今回のワークショップに参加して感じたのは、市民を巻き込んだ対話の場を設けることで、美術館と市民との距離を近づける効果があるということです。


新たなミュージアムを行政や専門家だけで考えるのではなく、市民が「自分たちの場所」として考える機会をつくることは、公共文化施設のあり方として非常に重要だと思います。

一方で、ワークショップは開催すれば十分というものではありません。参加者の意見をどう整理するのか、参加していない市民にどう届けるのか、そして次の意見や行動にどうつなげるのかが重要になります。


その意味で、今後はワークショップの運営に加えて、AIによる意見整理、インフォグラフィック化、SNSでの発信、QRコードによる意見募集などを組み合わせることで、市民参加の質をさらに高めることができるのではないかと感じました。


新たなミュージアムは、単なる展示施設ではなく、市民が集まり、学び、交流し、地域とつながる文化の拠点になる可能性があります。今回のワークショップは、その可能性を市民と一緒に考える貴重な場だったと思います。



ArtTech Consultingでは、文化施設・アートを活用した地域活性化や新規事業について、調査・企画支援を行っています。

 
 
 

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