ArtTechトレンド|新宿コズミック通りに見る、バブル期と現在の文化施策の違い
更新日:9月7日

先日、新宿区の「新宿コズミック通り」を歩いていると、歩道沿いに小さなブロンズ彫刻が並んでいることに気づきました。
鉛筆や絵筆、農作物、キツネ、軍靴など、一見すると脈絡のないモチーフですが、実はこれらは、この地域がかつて「戸山ヶ原」と呼ばれていた時代から現在までの歴史を表現したパブリックアートです。
今回は、この小さなパブリックアートから、バブル期前後と現在の文化施策の違いについて考えてみたいと思います。
1.90年代前後のパブリックアート
新宿コズミック通りには、現在、10点のブロンズ彫刻と28点の陶製歩道ライトが設置されています。

作品には、かつて農地や雑木林が広がっていた戸山ヶ原、陸軍施設が置かれた時代、そして戦後の学校や住宅地へと変化していった地域の歴史が表現されています。
彫刻群そのものの正確な設置年度は、現在公開されている新宿区の資料からは確認できませんでした。
一方、この周辺では1992年に「新宿区景観まちづくり条例」が施行され、同じ年に新宿コズミックセンターが完成しています。
1980年代後半から90年代前半にかけて、日本各地では美術館、文化会館、音楽ホール、彫刻公園など、多くの文化施設や文化的な公共空間が整備されました。
経済的に豊かになった日本社会が、道路や建物といった機能だけではなく、「文化」「景観」「都市の魅力」にも価値を求め始めた時代だったとも言えます。
コズミック通りのように、
「せっかく道路を整備するのであれば、普通の歩道ではなく、地域の歴史や文化を感じられる空間にしよう」
という発想も、その時代の文化政策・都市政策の流れの中で理解すると分かりやすくなります。
これは決して悪いことではありません。
30年以上経った現在でも、作品をよく見ると、そこから戸山ヶ原の歴史を知ることができます。
道路そのものを、小さな地域ミュージアムにした。
そう考えると、文化的な意義は十分にあったと思います。
2.しかし、現在はほとんど誰も見ていない
一方で、実際にコズミック通りを歩いてみて感じたことがあります。
正直なところ、私が歩いている間、これらの作品を立ち止まって見ている人はほとんどいませんでした。
多くの人にとっては、彫刻というより、既に歩道の一部になっています。
もちろん、作品そのものに問題があるわけではありません。
問題は、
「作品を設置した後、その文化をどう活用し続けるのか」
という部分です。
作品を設置する。
説明板を付ける。
そこで事業が終了してしまえば、30年後には存在そのものを知らない人が増えていきます。
パブリックアートを設置したからといって、それだけで地域の文化が継続的に発展するわけではありません。
アートを起点として、
✓ 地域の歴史を知る
✓ 人が街を歩く
✓ 人と人が交流する
✓ 学校教育で作品を見て、地域の歴史について考える
✓ 観光につなげ、地域のお店を訪れる
✓ 新しい文化活動につなげる
といった「次の動き」が必要になります。
言い換えると、
文化にはハードだけではなく、その後の「活用」と「成果」の設計も必要である
ということなのだと思います。
3.現在の文化政策は「つくる」から「循環させる」へ
現在、国の文化政策を見ると、この考え方はかなり明確になっています。
文化庁が2023年度から2027年度までを対象として策定した「文化芸術推進基本計画(第2期)」には、
「価値創造と社会・経済の活性化」
という副題が付けられています。
文化を文化だけで完結させるのではなく、
観光、まちづくり、教育、福祉、産業、国際交流、デジタル技術
などと結びつけていく方向です。
さらに「文化観光推進法」では、
文化を振興する
↓
人が訪れる
↓
宿泊・飲食・購買などの経済効果が生まれる
↓
地域が活性化する
↓
その成果を再び文化へ投資する
という「文化・観光・経済の好循環」が政策として示されています。
東京都の「東京文化戦略2030」でも、文化施設だけではなく、まちなかアート、デジタル技術、子ども・若者、高齢者、障害者、外国人、健康・福祉などまで文化政策の対象が広がっています。
つまり文化政策は、
「何をつくったか」
から、
「文化によって何が起きたのか」
へと評価軸が変化してきています。
来場者数だけではありません。
参加人数、滞在時間、再訪率、地域消費、観光客数、教育効果、地域への愛着、ウェルビーイングなど、文化活動と社会・経済との関係をどう測るかが重要になってきています。
かつての公共文化整備では、「設置すること」「施設を整備すること」自体が大きな成果として位置づけられていました。
現在は、
設置したところから何を始めるのか
までが問われるようになっています。
4.文化にビジネス視点はどの程度必要なのか
ここで難しい問題が出てきます。
アートの価値は、必ずしも数字では測れません。
素晴らしい作品を見て人生観が変わったとしても、その価値をROIで表すことは困難です。
一方、行政や企業がお金を投入する以上、
「何人が利用したのか」
「地域にどのような効果があったのか」
「なぜこの事業に税金を使うのか」
という説明も必要になります。
ここは、アートの世界が必ずしも得意としてこなかった部分なのかもしれません。
しかし、だからといって文化をすべて経済合理性で評価してしまえば、今度は文化本来の価値が失われます。
必要なのは、
「アートを経済価値に置き換えること」ではなく、「アートの価値が持続する仕組みを設計すること」
だと考えています。
そこには、アートの知識だけではなく、
企画 × マーケティング × データ分析 × IT × 収益設計 × 関係者調整
といったビジネスの視点が必要になります。
バブル期には、お金を使って「文化のある場所」をつくることができました。
現在求められているのは、
限られた資源の中で、文化が継続して動く仕組みをつくること。
文化政策が「ハード整備」から「価値の循環」へ変わってきた今、アートとビジネスの間をつなぐ役割は、これからさらに重要になっていくのではないでしょうか。
ArtTech Consultingでは、アートの文化的意義だけでなく、アートとビジネスをどうつなぎ、持続可能な仕組みにしていくのかについて、日々研究しています。



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