ArtTechトレンド|臨海副都心の差別化にアートを活用「国際美術展 TOKYO ATLAS」
更新日:10月12日

今回は、2026年10月10日に開幕した国際美術展「TOKYO ATLAS」を訪問しました。
TOKYO ATLASは、東京都などが主催し、お台場・青海・天王洲の臨海エリアを舞台に開催される国際美術展です。
草間彌生をはじめとする国内外のアーティストが参加し、普段は美術館ではない公園やビル、港湾施設などを活用して作品を展示しています。
今回、作品鑑賞とともに興味を持ったのが、東京都が臨海副都心の魅力づくりにアートを活用しているという点です。
そこで、これまでの取り組みや今回の開催経緯を調べながら、現地を歩いてきました。
1.なぜ臨海副都心でアートなのか?
お台場・青海・有明などからなる臨海副都心は、1980年代後半から東京都が開発を進めてきた地域です。
都心への業務機能の集中を緩和するとともに、国際化・情報化に対応した新しい副都心を目指して整備されました。
現在は、東京ビッグサイト、商業施設、オフィス、住宅、科学館、ライブ会場などが集積し、東京を代表する観光・ビジネスエリアの一つになっています。
一方で、東京都は以前から、臨海副都心を他の地域と差別化し、独自の魅力を高めることを課題としていました。
実際、東京都の2019年度予算案では、「アートスポット創出事業」に2億2,000万円を計上し、臨海副都心にアート拠点を整備するとともに、各種イベントを開催する方針を示しています。
つまり、アートを文化振興だけでなく、街の魅力づくりにも活用しようとしていたわけです。
また、臨海副都心には広大な公園や水辺、特徴的な建築物、港湾施設などがあります。
こうした空間は、大型作品や屋外インスタレーションを展開するうえでも、魅力的な環境と考えられます。
2.ARTBAY TOKYOでの積み重ね
東京都港湾局では、2019年度から「ARTBAY TOKYO」というアートプロジェクトを進めてきました。
臨海副都心を個性的な街として形成し、アートを地域文化として定着させることを目指した取り組みです。
2022年からは「ARTBAY TOKYO アートフェスティバル」として開催され、2024年までの3年間、屋外展示やインスタレーション、デジタル技術を取り入れた企画などが展開されました。

(ARTBAY TOKYO 2023の写真)
特に、アートを美術館の中だけでなく、公共空間や街の中で楽しめるという点が特徴です。
今回のTOKYO ATLASとは主催体制や事業の位置付けが異なりますが、臨海副都心でアートを活用してきたという意味では、共通する方向性があります。
東京都は、こうした取り組みを通じて、臨海副都心に新しい文化的な魅力を生み出そうとしてきたことが分かります。
3.国際美術展「TOKYO ATLAS」の新規開催
2026年、新たに国際美術展「TOKYO ATLAS」が開催されました。
開催概要は以下のとおりです。
会期: 2026年10月10日~12月20日
会場: 台場・青海・天王洲エリア
主催: 東京都、東京国際文化芸術祭実行委員会、東京都歴史文化財団
芸術監督: 建畠晢、三木あき子
観覧料: 原則無料(一部有料プログラムあり)
本展では、草間彌生などの国際的なアーティストによる作品展示に加え、東京都が支援してきた若手アーティストの発表機会も設けられています。
特徴は、都市空間そのものを展示会場として活用することです。
例えば、テレコムセンタービルでは巨大な吹き抜け空間に大型作品を展示し、青海南ふ頭公園では、普段利用できない地下駐車場も特別に展示空間として活用しています。
こうした大規模な空間利用は、通常の美術館では実現しにくい取り組みでしょう。
また、東京都の2026年度予算案では、TOKYO ATLASに約6億円が計上されています。
国内の主要な国際芸術祭と比較しても、相応の規模の文化事業です。
実は2025年開催の予定だった
今回の美術展には、興味深い経緯があります。
当初は2025年に「東京お台場トリエンナーレ2025」として、東京都とフジテレビが事務局を務める実行委員会によって開催される予定でした。
しかし、2025年2月、実行委員会側から関係者の理解や協賛金の確保が難しいことなどを理由に、準備の継続が困難との申し出がありました。
そのため、東京都は従来の体制での開催を見送り、これまで準備してきた企画を活かしながら、新しい実施体制を構築することになりました。
その結果、2026年のTOKYO ATLASとして開催されたわけです。
東京都としては、民間との共同事業が難しくなった場合でも、国際的な美術展を開催するという政策目標を維持した形と捉えることができます。
また、TOKYO ATLASは、2026年に始まった東京都の文化芸術祭「ARTE TOKYO」とも連動しています。
アートだけでなく、演劇、音楽、エンターテインメントなどを組み合わせ、東京という都市全体の文化的な魅力を高めようとする構想です。
4.現地レポート|アートを楽しみながら、お台場の魅力を再発見
今回は、台場公園、テレコムセンタービル、青海南ふ頭公園などを巡りました。
初めて訪れた第三台場跡地「台場公園」
最初に訪れたのは、幕末に江戸の防衛施設として築かれた第三台場跡地の「台場公園」です。

お台場には以前も何度か来ていますが、台場公園を訪れるのは今回が初めてでした。
かつての砲台跡や石垣などが残されており、東京湾の歴史を感じられる場所です。
ここでは、草間彌生の《ナルシスの庭》などを鑑賞しました。

鏡面の球体に空や周囲の風景が映り込む作品は、屋外ならではの楽しみ方があります。
それ以上に印象に残ったのが、台場公園の環境です。
潮風が気持ちよく、海と緑、対岸の高層ビル群が一体となった景色を楽しめました。
都心にいながら、これだけ開放感のある場所があるというのは、改めて東京の魅力だと感じました。
大型作品と屋外展示を楽しむ
テレコムセンタービルでは、巨大なアトリウムを利用した草間彌生の大型作品を鑑賞しました。

来館者については、開幕初日にもかかわらず、周辺の人通りはそれほど多くありませんでした。
ゆりかもめには外国人観光客を含め多くの人が乗車していましたが、お台場の中心部とテレコムセンター周辺では、人の集まり方に違いがあるように感じました。
その後、青海南ふ頭公園では、さまざまな屋外作品を鑑賞しました。
ヤギを介して地域との関係づくりを行う「ヤギの目」の活動紹介や、竹・木材を利用した展示、菜園を使った企画など、大型の現代アートとは異なる取り組みも見ることができました。

また、海を背景にしたジャズ演奏やパフォーマンスも楽しみました。

美術館の中で鑑賞する作品とは違い、風景や音、通りかかる人々まで含めて一つの体験になるところが、屋外芸術祭の面白さだと思います。
アートから東京港の魅力を発見
今回はレンタル自転車も利用し、臨海エリアをサイクリングしました。
お台場は道路や公園が広く、海を眺めながら移動できるので、自転車で巡るのも気持ちがいい場所です。
途中では、東京国際クルーズターミナルや、大型客船、コンテナターミナルなども目にしました。

また、アーティストトークの会場となった「TOKYO ミナトリエ」では、東京港の歴史やコンテナ物流を紹介する展示を見ることができました。
これまで東京湾というと、お台場の観光施設やレインボーブリッジなどの印象が強かったのですが、改めて国際物流を支える港でもあることを実感しました。
今回の芸術祭は、アートを鑑賞するだけでなく、東京の港湾機能や都市開発を知る機会にもなりました。
そして、海辺でアートや音楽を楽しんでいると、やはりアーティストと港町は似合うと感じます。
海、船、港湾施設、広い空、そして現代アート。
こうした景色が自然に共存していることも、臨海エリアの大きな魅力ではないでしょうか。
久しぶりに訪れたお台場でしたが、東京の良いところを改めて堪能できた一日でした。
5.まとめ|国際文化都市・東京に向けて
今回のTOKYO ATLASは、東京都が目指す国際文化都市構想を具体化する取り組みの一つです。
東京都内には既に多くの美術館やギャラリーがあり、民間主導の芸術祭も開催されています。
その中で東京都が独自に大規模な国際美術展を開催する意義は、民間だけでは実現しにくい展示空間の確保や、国際的な発信、若手アーティストの支援などにあると考えられます。
一方で、今回のような大規模な予算を毎回確保できるかどうかは、別の課題でしょう。
継続開催を考えるのであれば、来場者数だけでなく、地域への波及効果や民間企業との連携、アーティストの活動機会なども評価していく必要があると思います。
今回、私自身が感じたのは、アートには普段訪れない場所へ人を導き、街の魅力を再発見させる力があるということです。
お台場の歴史、海辺の風景、東京港の物流施設など、アートがなければ今回訪れなかった場所もありました。
大規模なイベントを開催すること自体が目的ではなく、それをきっかけに人と街の新しい関係が生まれることが重要なのだと思います。
東京都が進める国際文化都市への取り組みが、東京の魅力を高めるとともに、文化芸術の発展にも少しずつ成果を生み出していくことを期待しています。
ArtTech Consultingについて
ArtTech Consultingでは、アートとテクノロジー、ビジネスの接点に着目し、美術館・博物館のDX、文化施設の体験改善、アートを活用した地域・都市の魅力づくりなどについて調査・研究を行っています。
実際の美術館や芸術祭を訪問するフィールドワークを通じて、文化芸術と社会を結びつける新しい事業の可能性を探っています。



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