ArtTechトレンド|金融もデザイン×AI活用の時代に

今回は、元銀行員の私から見た、個人の資産管理における「デザイン思考」と「生成AI活用」についてご紹介します。
物価上昇が続く現在、個人の資産を守り、増やしていくためには、個別株や金融商品選びで「当てにいく」ことだけではなく、自分の生活や目的に合わせて、資産全体をどう設計するかが重要になってきています。
ここでいう「デザイン」とは、見た目を整えるという意味ではありません。
目的や制約条件を整理し、複数の選択肢を組み合わせながら、自分に合った仕組みを設計していくことです。
これは、ITシステムや新規事業をつくるプロセスにもよく似ています。
資産運用についても、私は次のような設計プロセスで考えています。
<設計プロセス>
①要件定義:何のために、いくら必要なのかを考える(デザイン思考・哲学思考)
②基本設計:資産・収入・支出・余剰資金を把握する
③詳細設計:ポートフォリオ(※)、コア・サテライト、リスク・リターンを設計する
④テスト:少額でPoC(試行)する
⑤運用:目的に照らしながら定期的に確認し、リバランス・改善する

※ポートフォリオとは、株式、債券、投資信託、現金など、保有する複数の金融資産を組み合わせた「資産全体の構成」のことです。何を持っているかだけでなく、それぞれをどの程度の割合で保有し、どのような役割を持たせるかまで含めて考えることが重要です。
1.要件定義
~自分の生活設計に金融をデザインする~
最初に考えるべきことは、「どの商品を買うか」ではありません。
まずは現在の生活と将来の生活を考え、
・何歳までに、どのくらいの資産が必要なのか
・どの程度まで資産を増やしたいのか
・どこまでの値下がりなら精神的・経済的に耐えられるのか
・資産運用にどのくらいの時間を使いたいのか
といった条件を整理します。
そして、ここでは哲学的な問いも重要になります。
そもそも、なぜお金を増やしたいのでしょうか。
老後の安心のためなのか。
仕事を選べる自由を得るためなのか。
旅行や文化・アートなど、自分が大切にする体験に使いたいのか。
家族へ残したいのか。
あるいは、資産そのものを増やすことに楽しさを感じるのか。

資産額だけを目標にすると、数字が増えても「いつまで増やせばよいのか」が分からなくなることがあります。
逆に、お金を何のために持ち、何に使いたいのかが明確になれば、必要なリターンや許容できるリスクも変わります。
資産運用は、金融の問題であると同時に、自分がどう生きたいのかを考える問題でもあります。
2.基本設計
要件定義が終わったら、まず次の3点を整理します。
①トータル資産の見える化
②毎月の収入・支出の見える化
③資産運用に回せる余剰資金の把握
資産額だけ把握していても、毎月いくら使っているのかが分からなければ、本当に投資へ回してよい金額は分かりません。
例えば、三菱UFJ銀行のMoney Canvas(マネーキャンバス)のように、資産や家計をまとめて確認できる無料サービスもあります。
(画面イメージ)

まず、
・資産はいくらあるか
・毎月いくら入ってくるか
・何にいくら使っているか
を見える化します。
その上で、不要な支出を減らせないか、収入を増やす余地はないかを検討し、生活や事業に必要な資金を除いた余剰資金を資産運用に回します。
投資より先に、キャッシュフローを設計するという順番です。
3.詳細設計
①コア・サテライト戦略
ポートフォリオを設計する代表的な考え方の一つに、コア・サテライト戦略があります。
資産の中心となる「コア」は、長期的に保有することを前提に、分散性や安定性を重視します。
一方の「サテライト」は、株価の大幅下落や為替変動など、特定の機会を捉えるための補助的な投資です。
重要なのは、サテライトがいつの間にか大きくなり、ポートフォリオ全体のリスクを支配しないよう、事前に役割や上限を決めておくことです。
(イメージ図)

②コア資産をどう設計するか
金融商品にはさまざまなものがあります。
ここでは、私自身が資産設計を考える上で活用している代表例として、
・全世界株式型(例:オルカン)
・バランス型(例:4資産均等、8資産均等など)
・MRF
の3種類を取り上げます。
これは「この3商品を買えばよい」という意味ではなく、それぞれ異なる役割を持たせる一例です。
(イメージ図)

オルカンとは
一般に「オルカン」と呼ばれるeMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)は、日本を含む先進国・新興国の株式へ1本で幅広く投資するインデックスファンドです。
長所は、世界の株式へ広く分散でき、長期的な世界経済の成長を取り込みやすいことです。
一方で、基本的には株式資産であるため、世界的な株価下落時には大きく値下がりする可能性があります。また海外資産を多く含むため、為替変動の影響も受けます。
私は主に、長期的な資産成長を担う「成長エンジン」として捉えています。
バランス型とは
バランス型ファンドは、株式だけでなく、債券やREITなど複数の資産へ分散投資する商品です。
例えば8資産均等型では、日本・先進国・新興国の株式と債券、日本・先進国のREITなど、複数の資産へ分散します。
株式100%の商品と比較すると、大きな上昇局面ではリターンが低くなる可能性があります。
一方で、複数資産へ分散することで、値動きを抑える役割が期待できます。
私は「オルカンより上か下か」という比較ではなく、ポートフォリオ全体を安定させる「スタビライザー」として考えています。
MRFとは
MRF(マネー・リザーブ・ファンド)は、主に円建ての公社債や短期金融商品などで運用する証券総合口座向けのファンドです。
出し入れしやすく、証券購入時の待機資金として利用できる点が特徴です。
長所は、株式などと比べて値動きが小さく、流動性の高い待機資金として使いやすいことです。また、銀行の普通預金金利より金利が高めである点も長所です。
一方で、株式のような大きな資産成長は期待しにくく、預金とは異なり元本保証の商品ではありません。
私は「投資をしていないお金」ではなく、次の投資機会に備える「補給基地」という位置づけで考えています。
③リスクとリターンを設計する
金融における「リスク」は、単純に「損をする危険」という意味だけではなく、一般に価格や収益がどの程度上下する可能性があるかを表します。
通常、より高いリターンを狙えば、値動きも大きくなる傾向があります。
ここで重要なのは、商品単体ではなく、ポートフォリオ全体でリスクとリターンを見ることです。
(イメージ図)

さらに、資産額が大きくなってくると、「10%のリスク」という比率だけでなく、
自分の場合、10%動くと何万円、何百万円変動するのか。
という「円金額」で理解することも重要になります。
複数の商品を組み合わせることでリスク・リターンは変わるため、証券会社等が提供する分析ツールを活用し、可視化してみるのも有効です。
例えば、三菱UFJモルガン・スタンレー証券でも、ポートフォリオ分析サービスが提供されています。
(画面イメージ)

4.テスト
~資産運用にもPoC~
設計方針が決まったら、次は実際に運用します。
ただし、これまで投資経験が少ない場合、最初から大きな金額を投入する必要はありません。
新規事業やシステム開発でいうPoC(Proof of Concept/概念実証)のように、まず小規模に試してみます。
実際に運用してみることで、
・値上がりした時にどう感じるか
・10%下落したらどう感じるか
・毎日価格を確認したくなるのか
・どの程度なら平常心を保てるのか
といった、自分自身の「心理的なリスク許容度」も見えてきます。

金融商品の理論上のリスクと、自分が実際に耐えられるリスクは必ずしも同じではありません。
ここをテストすることも重要です。
5.運用
~一度作って終わりではない~
実際の運用では、目的に応じてさまざまな方法があります。
例えば、毎月一定額を投資する「ドル・コスト平均法」や、ある資産の評価額を一定額に保ち、上昇したら超過分を売却、下落したら不足分を追加する「Constant Dollar(Constant Value)」などもあります。
運用方法は人それぞれです。
一度設定したらほとんど見ない「ほったらかし運用」が向いている人もいれば、月次で資産配分を確認した方が安心できる人もいます。
重要なのは、自分に合った運用ルールを事前に決めておくことです。
そして、意外と重要なのが精神面です。
経済ニュースや株価を毎日確認していると、短期の値動きに反応して、本来決めていた運用方針を変更してしまうことがあります。

そのため、例えば私は、必要以上に日々の価格を見ない、スマートフォンに取引アプリを入れない、月次でまとめて確認する、といった方法も有効だと考えています。
資産運用は、自動車でいえばエンジン性能だけではありません。
長く走り続けられるよう、ブレーキや制御系まで含めて設計する必要があります。
6.生成AIをどう活用するか
要件定義から運用まで、生成AIはかなり有効な支援ツールになります。
例えば、
・自分の資産状況を整理する
・ポートフォリオを分類する
・異なる資産配分を比較する
・株価が20%下落した場合の影響をシミュレーションする
・自分が考えた運用ルールの弱点を質問する
・投資後の結果を振り返る
といった「壁打ち」ができます。

特に生成AIの良さは、答えを教えてもらうことだけではなく、自分では思いつかなかった問いを投げ返してもらえることだと感じています。
一方で注意も必要です。
生成AIは、入力された質問や情報をもとに回答します。
そのため、自分が伝えていない資産、収入、税金、将来の予定などまで、自動的に考慮してくれるとは限りません。
また、最新の商品情報や制度について、誤った情報を返す可能性もあります。
そのため、
「AIに投資判断を任せるのではなく、AIを使って自分の判断を検証する」
という使い方が重要です。
最終的な制度、税務、商品情報については、金融機関や公的機関等の最新情報を確認する必要があります。
7.まとめ
今回は、資産管理を「金融商品選び」ではなく、一つのシステムとしてデザインするという考え方をご紹介しました。

要件を整理し、資産とキャッシュフローを見える化し、ポートフォリオを設計する。
小規模にテストし、実際に運用しながら改善する。
そして生成AIを壁打ち相手として活用する。
これは、新しいサービスやITシステムを開発するプロセスとも非常によく似ています。
もちろん市場は、世界経済、金利、為替、政治情勢など、さまざまな要素によって動くため、どれだけ設計しても荒波や暴風雨に見舞われることがあります。
だからこそ、リターンだけでなく、
「荒れた相場でも自分が続けられる仕組みになっているか」
まで含めて設計することが大切です。
私自身も現在進行形で試行錯誤を続けていますが、一つの考え方として参考になれば幸いです。
ArtTech Consultingについて
ArtTech Consultingでは、アート分野に限らず、金融×IT、生成AI、サービスデザインなどの知見を組み合わせ、複雑なテーマを整理し、実践可能な仕組みへ落とし込むための企画・コンサルティングに取り組んでいます。
金融分野においても、金融教育コンテンツ、顧客向けセミナー、研修、サービス企画等について研究を進めています。
「金融×デザイン×AI」をテーマとしたコンテンツ企画、研修、サービス開発にご関心のある企業・団体の方は、「お問い合わせフォーム」よりお気軽にご相談ください。
※本記事は、資産管理に関する一般的な考え方および筆者自身の実践例をご紹介するものであり、特定の金融商品の購入・売却等を推奨するものではありません。投資判断は、ご自身の資産状況、目的、リスク許容度等を踏まえて行ってください。



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