ArtTechトレンド|金融が工芸を支援する時代へ—MUFGのアートプロジェクト
更新日:10月14日

三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)が、2023年から「MUFG工芸プロジェクト」を展開しています。
テーマは、日本の工芸における**「伝統と革新」**。伝統的な文化や技術を次世代につなぐだけでなく、そこから変化の時代に必要なイノベーションを学ぶことも目的としています。
その取り組みの一つが、若手の工芸作家を支援する「KOGEI ARTISTS LEAGUE」です。
全国の大学や大学院などで工芸を学ぶ若手を対象に、作品を選考するだけではなく、第一線で活躍する作家との交流や学び、さらに日本橋三越本店での展示・販売までつなげています。
2026年は22名のファイナリストが選出され、8月19日から24日まで日本橋三越本店で展覧会が開催されています。
(下記は会場で展示されていた作品)

MUFGはなぜ工芸支援を始めたのか
MUFGが工芸プロジェクトを始めた背景には、日本の伝統工芸が抱える後継者不足や産業の衰退といった社会課題があります。
MUFGは社会貢献活動の重点領域の一つに「文化の保全と伝承」を掲げており、金融機関としてのネットワークを活用して、工芸の作り手と使い手をつなぎ、文化や技術の継承を支援しようとしています。
一方、もう一つ興味深い目的があります。
2023年10月のForbes JAPANのインタビューで、MUFGの亀澤宏規グループCEOは、工芸が伝統を守るだけでなく、時代の変化に合わせて革新を続けてきたことに注目しています。
金融機関にも伝統的・保守的な部分があるからこそ、革新が必要であり、工芸から変化の時代を生き抜くヒントを学びたいと説明しています。
つまり、MUFGの取り組みは、単なる文化支援にとどまらず、工芸の「伝統と革新」から、自社の企業変革につながる学びを得ようとするものでもあったのです。
秋元雄史氏が総合監修
このプロジェクトで興味深いのが、東京藝術大学名誉教授であり、金沢21世紀美術館館長などを歴任してきた秋元雄史氏が、「MUFG工芸プロジェクト」の総合監修を務めていることです。
秋元氏は、工芸を単なる伝統文化としてではなく、日本が長い時間をかけて培ってきた**「ものづくりの思想」**として捉えています。
日本人は自然素材から最先端のテクノロジーまで、素材と向き合うことでさまざまな技術やアイデアを生み出してきたとし、工芸をその中心に位置するものとして捉えています。
つまり、文化を保存するだけではなく、工芸の中にある素材への理解、技術、創造性を、これからの社会やビジネスにつながる価値として考えている点が面白いところです。
金融×アート・工芸という組み合わせ
個人的に注目したいのは、これを行っているのが美術館や文化財団ではなく、日本を代表する金融グループであるMUFGだという点です。
金融は「お金」を扱うビジネスですが、その先には企業、産業、地域、そして文化があります。
若い作り手を発掘し、育成し、発表・販売までつなげていく取り組みは、文化支援であると同時に、長期的には新しい産業や市場を育てる活動とも見ることができます。
実際にMUFGは海外でも工芸作品の展示や、「工芸から学ぶビジネスのヒント」をテーマとしたトークイベントなどを実施しており、日本の工芸を文化だけではなく、ビジネスやグローバルな視点から捉える活動も進めています。
日本の強みは「クラフト」にあるのではないか
AIやデジタル技術の進化によって、誰でも簡単にイラストや画像をつくれるようになってきました。
その一方で、逆に価値が高まっていくものの一つが、地域固有の文化や素材、そして長い時間をかけて培われてきた**手仕事としての「クラフト」**ではないでしょうか。
陶磁器、漆、木、金属、布、ガラスなど、日本には各地域に非常に多様なクラフトの蓄積があります。
そして今回の展示を見ても、伝統的な素材や技法を使いながら、造形や表現そのものは非常に現代的な作品が多く、「工芸」と「現代アート」の境界自体が曖昧になってきているようにも感じました。
それらを「伝統工芸」として守るだけではなく、現代アート、デザイン、建築、観光、ラグジュアリー、海外市場などと組み合わせることができれば、日本独自の新しい産業へ発展する可能性があります。
MUFGの取り組みは、「金融×工芸」という少し意外な組み合わせですが、だからこそ興味深い。
AIやテクノロジーが世界共通のものになっていく時代だからこそ、長い時間をかけて培われた技術や文化、素材への感覚といった、簡単にはコピーできないものの価値が改めて注目されていくのかもしれません。
これからの日本にとって、アートや工芸は文化政策だけのテーマではなく、産業や企業戦略として考える領域になっていくのではないでしょうか。
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