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ミュージアム研究|カフェを入口にアートと出会う―渋谷の小さなミュージアム「MINA」

10月14日
読了時間: 8分

今回は、カフェを入口に、日常生活の中でアートと出会う機会をつくっている「Museum of Imaginary Narrative Arts(MINA)」をご紹介します。


2026年4月に渋谷駅近くにオープンした施設で、アート作品に囲まれながら食事やコーヒーを楽しめる、新しいスタイルの小さなミュージアムです。


今回訪問したきっかけは、国際美術展「TOKYO ATLAS」の関連トークイベントが開催されたことでした。


実際に訪問してみると、カフェ、現代アート、イベント、交流を組み合わせることで、従来の美術館とは異なるアートとの接点をつくっていることがわかりました。


今回は、MINAの取り組みとイベントでの体験を紹介しながら、民間企業による新しい文化施設のあり方について考えてみたいと思います。


1.Museum of Imaginary Narrative Arts(MINA)について


東急が取り組む新しい文化拠点

MINAは、東急株式会社が2026年4月1日に渋谷区渋谷3丁目にオープンしたミュージアム&カフェです。


場所は渋谷駅のC1出口から徒歩約1分。駅前の便利な立地にありながら、落ち着いた雰囲気の小さな文化施設となっています。


東急グループは、渋谷のまちづくり戦略「Greater SHIBUYA 2.0」を推進しており、商業やオフィスなどの都市機能の充実とともに、文化的な価値の創出にも取り組んでいます。


MINAもその一環として、地域住民、学生、周辺企業で働く人など、さまざまな人が日常的にアートと接することのできる場所を目指しています。


施設名の「Imaginary Narrative」は「架空の物語」という意味で、訪れた人やアーティストがそれぞれの関わり方で、新しい物語をつくっていくという考え方が込められています。


特徴的なのは、通常の美術館のように展示鑑賞だけを目的とするのではなく、カフェとしての利用を通じて自然にアートに触れられることです。


年4回の現代アート展を中心に、作品販売、ワークショップ、ラーニングプログラム、季刊誌の発行なども展開しています。


つまり、美術館へ行こうと思わなくても、食事や休憩をきっかけにアートと出会える仕組みになっています。


アーティストユニット「L PACK.」のこだわり

MINAのディレクションを担当しているのは、現代美術ユニット「L PACK.(エルパック)」です。


L PACK.は、静岡文化芸術大学の空間造形学科を卒業した小田桐奨氏と中嶋哲矢氏によって、2007年に結成されたアーティストユニットです。


建築や空間デザインを学んだ経験を背景に、「コーヒーのある風景」をテーマとして、アート、デザイン、建築などの分野を横断した活動を展開しています。


作品を制作して展示するだけではなく、コーヒーを飲む場所や、人々が集まり交流する空間そのものをアートとして捉えていることが特徴です。


これまでも、横浜の黄金町や東京の池上などで、カフェや地域交流拠点の企画・運営に関わってきました。


特に池上では、東急の地域活性化プロジェクトにも参加しており、今回のMINAは、そうした協業の延長線上にある取り組みです。


東急の公式インタビューによると、L PACK.は、ミュージアムとして作品を見せることと、カフェとして居心地のよい空間をつくることの両立を意識しています。


例えば、展示に適した白い壁ではなく、カフェ利用者にとっても落ち着ける壁の色を選んだり、作品そのものをテーブルとして利用したりするなど、従来の美術館の常識にとらわれない工夫が取り入れられています。


また、飲食メニューと展示作品の読み物を組み合わせた「COFFEE TABLE BOOK」も用意されています。


注文後に読み物をきっかけとして作品に興味を持ち、展示を鑑賞する人もいるそうです。

アートに関心を持つ人だけを集めるのではなく、日常的に訪れる人が自然にアートと接する機会をつくる。


そこに、MINAとL PACK.の取り組みの面白さがあると感じました。


2.TOKYO ATLASのトークイベントを体験

2026年10月12日、MINAで開催された「国際美術展 TOKYO ATLAS 関連企画 Talk Event & After Party」に参加しました。


        (トークショーの風景)

   

TOKYO ATLASは、東京都などが主催し、お台場・青海・天王洲の臨海エリアで開催されている国際美術展です。


今回のトークイベントには、次の3名が登壇しました。

  • 三木あき子氏:TOKYO ATLASのアーティスティック・ディレクター

  • 竹岡雄二氏:出展アーティスト

  • 藤原徹平氏:建築家・会場構成の協力者


内容は、作品の制作思想から、公共空間を活用した展示の難しさ、国際芸術祭の継続性まで幅広いものでした。


現地見学から企画者の視点へ

実は、今回のイベントの2日前、10月10日にTOKYO ATLASの現地を訪問し、その内容をブログにまとめたばかりでした。

      (草間彌生氏の作品がテレコムセンターに展示)


前回の記事では、東京都が臨海副都心の差別化や都市の魅力づくりにアートを活用しているという視点から紹介しました。


今回、実際に作品を見た直後に、企画に関わった方々から直接話を聞くことができたのは、とてもよい機会になりました。


特に印象に残ったのが、三木氏の「東京を普段とは異なる視点から見る」という考え方です。


「ATLAS」には地図帳という意味があり、広い東京の中で、まだ知られていない場所や魅力を再発見してほしいという思いが込められています。


また、展示会場の一つとなった地下駐車場については、2026年初めまで利用許可が得られなかったという裏話もありました。


普段あまり利用されていない都市空間をアートの展示場所として活用することにも、多くの調整が必要だったようです。


アートを実現するための舞台裏

藤原氏の話では、アーティストの自由な発想を実際の公共空間で実現するために、さまざまな制約への対応が必要になることが紹介されました。


建築や都市計画に関する法規制、安全性、設備、行政機関との調整など、作品を設置するだけでも多くの検討が必要です。


特に興味深かったのは、アーティストの構想を実現するために、建築家が技術面や制度面の調整を行っているという点でした。


また、竹岡氏からは、作品を置く「台座」そのものを芸術作品として捉える考え方や、公共空間に作品を置くことで、普段見慣れたものの意味が変わるという話がありました。

      (竹岡氏の作品群、左にあるキッチンカーはMINAが運営)


作品の背景を知ることで、現地で見た展示についても、もう一度違う視点から考えることができました。


アフターパーティーにも参加

トーク終了後には、同じ会場で開催されたアフターパーティーにも参加しました。


アート関係の方々と直接お話しする機会もあり、普段の美術館鑑賞とは違った楽しさがありました。食事もお酒も美味しく、リラックスした雰囲気の中で交流できたことも印象に残っています。


渋谷駅からすぐというアクセスのよさもあり、気軽に立ち寄れる場所で、このような文化イベントが開催されているのは魅力的です。


今回の体験を通して、MINAは作品を鑑賞する場所であると同時に、アートをきっかけに人と人がつながる場所としても機能していると感じました。


3.まとめ|日常生活からアートへの入口をつくる

今回訪問したMINAは、東急という民間企業が、アーティストと協業しながら、新しい文化拠点をつくっている興味深い事例でした。


従来の美術館では、展覧会を見ることが主な来館目的になります。一方、MINAでは、カフェでの食事や休憩、イベントへの参加など、アート以外の目的でも訪れることができます。


今回特に興味深かったのは、カフェという日常的なサービスを入口に、自然とアートに触れ、展示やイベントへと関心を広げる仕組みが設計されていることです。


こうした取り組みは、来館者の裾野を広げたい美術館や、文化的な価値を取り入れたい商業施設にとっても参考になるのではないでしょうか。


また、企業とアーティストが協業し、施設のコンセプトから来訪者体験まで一体的に設計している点も、民間主導による興味深い取り組みだと感じました。


ハイパーミュージアム飯能との共通点

少し似た取り組みとして、以前の記事で紹介した、埼玉県飯能市の「ハイパーミュージアム飯能」があります。

       (増田セバスチャン氏の企画展の屋外展示)


ハイパーミュージアム飯能は、商業・観光施設「メッツァビレッジ」の中にあり、買い物や食事、散策を楽しむ人が、現代アートにも触れられるような立地になっています。


MINAとハイパーミュージアム飯能では、施設の規模や運営形態は異なりますが、共通しているのは、アート以外の来訪目的を入口として、新しい鑑賞者との接点をつくろうとしていることです。


ハイパーミュージアム飯能は、観光や商業施設との組み合わせによってアートへの動線をつくる。MINAは、カフェという日常的な場所の中にアートを組み込む。


それぞれ異なる方法ですが、どちらも従来の美術館とは違った来館者体験を提供しようとしています。


今後の展開に期待

今回のMINAでは、トークイベントをきっかけに施設を訪問しましたが、実際に体験してみると、カフェ、展示、イベント、交流が一つの空間で組み合わされていることがわかりました。


特に、アートを特別な鑑賞体験としてだけではなく、日常生活の中で自然に触れられるものにしていこうという考え方が印象的でした。


今後、こうした施設が地域に根付き、アートに関心を持つ人の裾野をどのように広げていくのか、引き続き注目したいと思います。


また、次回の展示やイベントにも期待しています。


ArtTech Consultingの取り組み

ArtTech Consultingでは、全国の美術館・博物館・文化施設を対象に、施設運営、市民参加、地域連携、来館者体験、IT・AI活用などの事例調査を進めています。


現地調査で得られた知見とIT・事業開発の実務経験を組み合わせ、文化施設の体験改善、デジタル活用、新しいサービスの企画・構想につなげることを目指しています。


参考資料

 
 
 

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