現場レポート|日本のオルタナティブスペース―アートと生活をつなぐ新しい活動のかたち

先日、横浜にあるオルタナティブスペース「Art Center NEW」で、日本各地のオルタナティブスペースが参加するアートフェア「NEW PLATFORM – Alternative JAPAN –」が開催されていたため、会場を訪問してきました。
今回は作品展示を見るだけではなく、9月11日に開催されたトークイベント「衣食住とアート:コミュニティ、飲食、日常の中での実践」にも参加しました。
「オルタナティブスペース」という言葉は、アートに関心がある人でも、美術館や商業ギャラリーと比べると、まだあまり馴染みがないかもしれません。
そこで今回は、実際の展示や運営者の話をもとに、日本のオルタナティブスペースがどのような活動をしているのか、その特徴や課題について整理してみたいと思います。
今回の「NEW PLATFORM – Alternative JAPAN –」には、北海道から沖縄まで13都道府県、23のスペースが参加していました。
(展示作品とパフォーマンス)

1.オルタナティブスペースとは
オルタナティブスペースとは、一般的な美術館や商業ギャラリーとは異なる方法で、アーティストの展示や創作活動を行う場所です。
「Alternative=もう一つの、代替的な」という言葉が示すように、既存の美術制度では扱いにくい表現や、若手アーティスト、実験的なプロジェクトなどを受け入れる場所として発展してきました。
ただし、その形態に明確な決まりがあるわけではありません。
例えば、
ギャラリー
+カフェ
+バー
+ショップ
+アーティスト・イン・レジデンス
+ワークショップ
+地域活動
といったように、さまざまな機能を組み合わせて運営しているところがあります。
今回の会場でも、一軒家、カフェ、バー、元工場など、一般的な「ホワイトキューブ型のギャラリー」とは異なる場所を拠点として活動している団体が多く見られました。
つまり、オルタナティブスペースは単なる「作品を展示する場所」というより、
アーティストが実験し、人が集まり、交流し、新しい文化活動を生み出す場所
と考えた方が理解しやすいように思います。
2.どのようなオルタナティブスペースがあるか
今回参加していたスペースを見るだけでも、その活動内容はかなり多様でした。
例えば、一軒家を活用し、アーティストが住み込みながら制作や展示を行う場所。
バーを営業しながら、現代アート、DJ、ドキュメンタリー映画の上映などを行う場所。
地方の里山で、週末だけカフェを営業しながら長期間活動を続けている場所。
元印刷工場を活用し、展示だけではなく、ビールづくり、食事会、ほうきづくり、ワークショップなどを実施している場所。
また、カフェやショップと組み合わせ、Tシャツやプリントなどを販売するスペースもあります。
今回会場を回っていて特に印象的だったのは、
「アートを見る場所」と「生活する場所」の境界が非常に曖昧
ということでした。
展示作品だけではなく、物販、飲食、イベント、パフォーマンス、映像、地域活動なども含めて、その場所自体が一つの文化活動になっています。
3.ギャラリーとの違い
実際に会場を回ってみると、一般的な商業ギャラリーとはかなり違う印象を受けました。
商業ギャラリーでは、アーティストの展覧会を企画し、作品を販売・流通させながら、長期的に作家の活動や市場形成を支えていくことが重要な役割の一つです。
一方、オルタナティブスペースでは、必ずしも作品販売が中心ではありません。
パフォーマンス、映像、インスタレーション、地域活動、ワークショップなど、「作品として所有すること」が難しい表現も多く見られます。
私自身、現代アート作品を購入することもありますが、今回会場を見ていて、
「展示としては興味深いが、自宅に置きたい作品とは少し違う」
と感じるものも多くありました。
これは作品の優劣というより、そもそも目的が違うのでしょう。
商業ギャラリーが「作品の流通」を重要な役割として持つのに対して、オルタナティブスペースでは、
新しい表現を試すことアーティスト同士がつながること地域との関係をつくること
などがより重要になります。
今回の「NEW PLATFORM」も、非営利を基盤とするオルタナティブスペースを、あえてアートフェアという「販売の場」に集めることで、作品販売を含めた持続可能な運営方法を考える機会として位置づけられていました。
4.「衣食住とアート」―コミュニティ、飲食、日常の中での実践
今回参加したトークイベントのテーマは
「衣食住とアート:コミュニティ、飲食、日常の中での実践」
でした。
各地で活動するオルタナティブスペースの運営者から、展示以外にどのような活動を行っているのか、かなり具体的な話を聞くことができました。
例えば、
一軒家にアーティストが住み込み、制作や運営を行う。
バーを営業しながら、展示、DJ、映画上映を行う。
週末カフェを運営しながら、地域住民と交流する。
Tシャツやプリントなどを販売し、高額な作品を購入しない人にも、アーティストにお金を使ってもらう。
ゲストハウスを運営し、宿泊者が自然にカフェやバー、アート活動へ参加する。
ワークショップや食事会を通じて、地域の人との接点をつくる。
といった実践が紹介されました。
特に印象的だったのは、運営と日常生活がほとんど一体化しているという話です。
展覧会が終われば次の企画を考え、作家と打ち合わせをし、他の展示を見に行き、フライヤーを作り、夜には作家や来場者と酒を飲む。
長期間活動していると、作家との関係も単なる仕事相手ではなく、家族のような関係になっていくこともあるそうです。
一方で、その裏側にはかなり現実的な課題もあります。
作品販売だけでは十分な収益を確保できない
スタッフを雇う余裕がない
別の仕事をしながら運営する
ワンオペで活動を続けることで、運営者自身が疲弊する
こうした話も多く出てきました。
また、助成金を活用して活動を始めたものの、人件費として十分に活用しにくく、結果として運営者の負担が大きくなったという具体的な経験も紹介されました。
中には、長期間ワンオペで活動を続けるのではなく、今後は活動を「制度化」していきたいという話もありました。
これは非常に重要なポイントだと思います。
オルタナティブスペースの魅力は、大きな組織では難しい自由で柔軟な活動ができることです。
しかし、その自由さが逆に、
特定の個人の情熱や無償労働に依存する
という問題を生む可能性もあります。
今後、日本でオルタナティブスペースが継続していくためには、
作品販売
+飲食
+物販
+宿泊
+イベント
+助成金
+地域・企業との連携
など、複数の収益源を組み合わせながら、個人に依存しすぎない運営体制をつくることが重要になるのではないでしょうか。
5.ArtTech Consultingでは、さまざまなアーティスト活動も研究しています
今回オルタナティブスペースを訪問して改めて感じたのは、アートの世界は、美術館や商業ギャラリーだけで成り立っているわけではないということです。
小さなスペースで実験的な活動を続ける人
地域の人と交流しながらアート活動を行う人
飲食店を運営しながら作品を発表する人
別の仕事を持ちながらアートスペースを維持する人
こうした活動も、日本のアートシーンを支える重要な存在です。
同時に、
「アーティストが活動を継続するためには、どのような仕組みが必要なのか」
という課題も見えてきます。
ArtTech Consultingでは、アート作品だけではなく、美術館、芸術祭、ギャラリー、オルタナティブスペース、地域文化活動など、さまざまなアートの現場を訪問し、その運営方法や課題について研究しています。
ITやデジタル技術だけでなく、ビジネス、地域、コミュニティなどの視点も組み合わせながら、アート活動を継続していくための新しい仕組みについて、今後も現場から考えていきたいと思います。



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