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ArtTechトレンド|AIと異分野の共創が生み出す新しいものづくり―「alter. 2026, Tokyo」

3 日前
読了時間: 10分


2026年10月29日、東京・日本橋三井ホールで開催されたデザインイベント「alter. 2026, Tokyo」を訪問しました。


普段は美術館やアートフェア、芸術祭を中心に巡っていますが、今回は少し趣向を変え、デザインとテクノロジーをテーマとしたイベントです。


最初に会場を訪れたときは、デザイン家具や生活雑貨の展示・販売が中心という印象で、正直なところ、それほど興味を引かれませんでした。


しかし、メイン会場に進むと、素材研究や製造技術、AIなどを取り入れた実験的な作品が並び、制作の背景を知るにつれて面白さを感じるようになりました。


今回は、会場で見た作品を紹介しながら、AIと異分野の協業による新しいものづくりの可能性について考えてみたいと思います。


1.実験的デザインイベント「alter. 2026, Tokyo」とは

「alter.」は、2025年にスタートした実験的なデザインイベントです。


デザイナー、アーティスト、建築家、エンジニア、職人、企業など、異なる専門性を持つ人々がチームを組み、プロトタイピング(試作)を通じて新しいプロダクトデザインの可能性を探っています。


2026年は2回目の開催となり、国内外から約75名のクリエイターが参加。国際的な選考委員会によって選ばれた9つのプロジェクトが展示されました。


開催概要は以下のとおりです。

  • 開催期間:2026年10月29日~11月1日

  • 会場:日本橋三井ホール

  • 主催:alter. 実行委員会

  • 特別協賛:三井不動産株式会社

  • 協賛・協力:カリモク家具株式会社

  • 助成:アーツカウンシル東京


今回のイベントは、大きく3つのエリアから構成されていました。


EXHIBITION(展示)

異なる専門分野のクリエイターが共同開発した、9つの実験的なプロジェクトを展示するエリアです。


CIRCUIT(販売・流通)

プロトタイプを展示だけで終わらせず、実際の暮らしや市場につなげることを目的としたエリアです。

過去の出展作品や新たに採択されたプロジェクト、企業とアーティストによる共同制作物などを紹介・販売し、新しいプロダクトを社会へ届ける仕組みを模索しています。


LOUNGE(交流)

来場者とクリエイターが交流できる空間で、トークプログラムや、来場者が利用できるバーなどが設けられています。


通常のアートフェアとの違いは、完成した作品を展示・販売することだけでなく、新しい製品を生み出すための研究や試作、そのプロセス自体も展示対象としている点です。


また、企業とアーティストが共同開発した作品を販売へつなげようとしているところにも特徴があります。


2.会場で見た新しいプロダクトデザイン

会場では、伝統工芸から先端技術まで、さまざまな素材や技術を活用した作品が展示されていました。



① Bole|林業とデザインによる新しい家具づくり

一本の丸太を輪切りにし、8脚のスツールへと加工するプロジェクトです。

林業や製材に関わる企業とデザインスタジオが協業し、木材の加工方法だけでなく、林業従事者へ価値を還元する仕組みも考えています。

単にデザイン性の高い家具を製作するのではなく、地域産業が抱える課題をデザインによって解決しようとしている点が興味深く感じました。


② Capillary Drift|伝統工芸と素材研究

和紙職人、染色職人、デザイナーが共同で研究しているプロジェクトです。

和紙の繊維構造と、液体が細い隙間を移動する「毛細管現象」に着目し、染料の動きや素材の変化を新しい表現へと発展させています。

日本の伝統技術をそのまま継承するだけではなく、他分野の知識を取り入れることで、新たな製品開発へつなげようとしている点が印象的でした。


③ Obscured Apparatus|使われなくなった機器の再構成

個人的に面白いと思った作品の一つです。

用途が分からなくなった機械や、片方だけ残ったスピーカーなどを集め、元の機能を残しながら新しい形へと再構成しています。

スピーカーであれば、通常は左右一組で音を再生するものですが、片方しかないスピーカー自体を、音を発する新しいオブジェクトとして扱っています。

単に廃棄物をリサイクルするのではなく、モノの本来の用途や存在価値を考え直す試みとして興味深く感じました。


④ A SITTING ROOM|家具・衣服・建築を融合

ソファ、収納、クローゼットを一体化した作品です。

家具、衣服、空間という異なる分野を一つの構造物にまとめ、生活空間そのものを再構成しています。

通常は別々に設計されるものを組み合わせることで、新しい製品の可能性を提示しています。


展示全体を通して感じたこと

今回の展示は、一般的な家具展示会やアートフェアと比較すると、かなり実験的で独特な印象でした。

完成した製品として評価するよりも、「なぜこのようなものを作ろうとしたのか」「どのような技術や専門家が関わっているのか」を理解することで、面白さが増す作品が多かったと思います。


一方、説明を聞かずに作品を見ただけでは、制作意図や技術的な特徴が分かりにくいものもありました。

そのため、クリエイターとの対話や制作プロセスの説明が、このイベントの価値を理解するうえで重要だと感じました。


3.AIが見えない環境の変化を形にする「他力研究所―実験茶会」



今回、最も興味を持ったのは、「他力研究所―実験茶会(TARIKI LABORATORY)」 です。

このプロジェクトは、人間が普段意識していない自然や環境の変化をセンサーによって取得し、AIでデータを変換することで、新しい造形物を生み出そうとする試みです。


ここでいう「他力」とは、風や光、気圧の変化、地面の振動など、人間が完全には制御できない環境の力を意味しています。


今回の「実験茶会」は、会場そのものを一つの茶室に見立て、人ではなく環境から取得したデータが場を導くというコンセプトです。

AIを通じて生み出された独自の形状を持つ器と、お茶を組み合わせることで、普段は意識することのない環境の変化を体感する試みとなっています。


① さまざまな環境データをAIで変換

このプロジェクトでは、音、振動、風、気温、湿度、画像、3D点群など、さまざまなデータを取得します。


取得したデータは、Tengun-labelが開発したAIアルゴリズム「MS-SeqVAE」によって処理され、異なるセンサーデータの特徴や関係性を学習したうえで、独自の「.trk」というデータ形式に変換されます。


このデータを製造装置の制御に活用することで、環境の変化や不確実性を実際の造形に反映させています。


特徴的なのは、人間が設計した形状をそのまま再現するのではなく、自然や環境の不確実な変化を製造工程に取り入れる点です。


② AIのデータを製造装置に反映

会場では、PETボトルの原型となる「プリフォーム」を加工する実験装置が展示されていました。


通常、PETボトルは金型を使用したブロー成形によって大量生産されます。

しかし、この装置では金型を使わず、AIが変換したデータを加熱温度、送風量、回転角度などに反映して、異なる形状を生み出します。


製造工程にデータの変化を取り入れることで、一つひとつ異なる造形が生まれるという仕組みです。


同じ形状を安定して大量生産する従来の工業製品とは、反対の考え方ともいえます。


③ Tengun-labelの岩澤社長との会話

会場では、このプロジェクトに参加している株式会社Tengun-labelの代表取締役、岩澤秀樹氏から、技術や制作の仕組みについて直接お話を伺う機会がありました。


同社は、AIや3D点群データ解析、デジタルツイン技術、メディアアート制作などを手掛ける企業です。


今回の取り組みについて説明を聞く中で、画像処理や文章生成だけでなく、AIが製造工程そのものに関与し、物理的な形状を生み出すことに大きな可能性を感じました。


また、今回のプロジェクトには、センサー技術を持つアズビル、容器製造技術を持つ東洋製罐、飲料メーカーの伊藤園など、異なる分野の企業が参加しています。


AI技術、製造技術、プロダクトデザイン、アートを組み合わせることで、従来とは異なるものづくりが生まれていることが、非常に興味深く感じられました。


4.コンサートの感動を形にする―現場で発想した応用アイデア

岩澤社長とお話しする中で、今回の技術を別の分野へ応用できないかと考え、一つのアイデアをお伝えしました。


それは、コンサートで収集した音をAIで解析し、その公演だけの記念オブジェクトを製作するというものです。


例えば、コンサート会場で演奏された音楽や観客の歓声、振動などを収集します。

そのデータをAIによって変換し、独自の形状を持つオブジェクトを製作します。


さらに、オブジェクトに音声を再生する機能を付ければ、自宅で作品を眺めながら、コンサートで体験した感動を再び思い起こすことができます。



販売方法としては、コンサート会場でファンから注文を受け付け、1~2か月後に完成品を配送する仕組みも考えられます。


通常のコンサートグッズは、あらかじめ製造された商品を購入するものですが、この仕組みであれば、その公演で生まれた音から製作された記念品になります。


同じアーティストのコンサートでも、公演日や会場によって異なるオブジェクトを制作することができれば、ファンにとって特別な価値を持つ商品になるのではないでしょうか。


もちろん、実際の商品化には製造コストや音源の権利処理、販売価格、量産方法など、検討すべき課題があります。


それでも、今回の技術を音楽エンターテインメントの分野へ展開することで、新しいファン向けサービスが生まれる可能性を感じました。


また、応用先はコンサートだけではありません。


スポーツイベント、地域の祭り、観光地での体験など、その場所や時間にしか存在しない音や環境データを、記念品として残すことも考えられます。


単なる商品の販売ではなく、体験した時間や記憶に、新しい形を与えるサービスとして発展させられるのではないでしょうか。


5.まとめ|異分野の共創から生まれる新しいものづくり

今回の「alter. 2026, Tokyo」は、一般的なアートフェアやデザイン展示会とは異なる、かなり実験的なイベントでした。


会場には、製品としての完成度や市場性よりも、これまでにない発想や技術の組み合わせを重視した作品が多く、独特な印象を受けました。


一方で、作品の背景を理解できなければ価値が伝わりにくい面もあり、今後、どの程度の人が実際に購入するのか、継続的なビジネスにつながるのかは、興味深いところです。


今回、特に印象に残ったのは、従来のアートイベントで見られるようなアーティスト同士の協業だけでなく、IT企業、製造業、伝統工芸の職人、デザイナー、アーティストなど、異なる業界の専門家が一緒にものづくりをしていることです。


近年、AIは画像生成、映像制作、文章作成など、デジタル領域で急速に活用が進んでいます。

今後は、こうしたAI技術を実際の素材加工や製造工程へ取り込み、新しい製品を生み出す取り組みも広がっていくと思われます。


特に日本には、長年蓄積されてきた素材加工技術、精密な製造技術、伝統工芸など、多様なものづくりの基盤があります。

そこにAIやデータ解析技術、アーティストの発想が加わることで、日本ならではの新しい製品やサービスが生まれる可能性があるのではないでしょうか。


アートテックコンサルティングについて

ArtTech Consultingでは、アートとテクノロジーの融合をテーマに、美術館や芸術祭、デザインイベント、先端技術の活用事例など、さまざまな分野の調査・研究を行っています。


現地での体験や関係者との交流を通じて得られた知見をもとに、単なるアートの鑑賞や技術紹介にとどまらず、新しい製品・サービスの可能性や、ビジネスとしての展開という視点からも考察を重ねています。


こうした取り組みや、アートとテクノロジーを活用した新しい事業の可能性にご関心のある企業・団体・個人の方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。


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