ArtTechトレンド|金融とアートの共創が広がる―みずほFG×東京藝術大学の取り組み
更新日:10月14日

前回の記事では、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)が取り組む、若手工芸作家の育成や作品の展示・販売を支援するアートプロジェクトをご紹介しました。
調べていくと、MUFGだけでなく、他のメガバンクもアートに力を入れていることがわかってきました。
今回は、みずほフィナンシャルグループ(以下、みずほFG)と東京藝術大学が進めている取り組みをご紹介します。
きっかけとなったのは、経済産業省が2025年に創設した「ART & BUSINESS AWARD 2025」です。
このアワードで、みずほFGの「藝大連携プロジェクト」が、コーポレート・ストラテジー部門のファイナリストに選ばれていました。
銀行とアート、一見するとあまり関係のない組み合わせですが、実際に調べてみると、単なる文化支援や企業の社会貢献にとどまらない活動が行われていました。
1.ART & BUSINESS AWARD 2025とは
「ART & BUSINESS AWARD」は、経済産業省が企業とアートの共創による経済的価値の創出を評価するため、2025年に創設した表彰制度です。
アート作品の芸術的な評価ではなく、企業がアートを活用して、新しい事業や企業価値、地域経済への波及効果などを生み出しているかという点に特徴があります。
2025年度は5つのカテゴリーで表彰が行われ、みずほFGは「コーポレート・ストラテジー」部門のファイナリストに選ばれました。
この部門は、アートの価値を企業戦略や組織運営などに活かし、経営領域に新たな変化を生み出した企業を評価するものです。
つまり、みずほFGの取り組みは、単なる芸術活動への協賛ではなく、企業経営とアートを結びつける事例として評価されたと考えられます。
2.東京藝術大学との包括連携協定
みずほFGは、2023年11月7日、東京藝術大学と包括連携協定を締結しました。
東京藝術大学との連携は、なぜ始まったのか
実は、みずほFGと東京藝術大学の連携は、協定締結の約1年前、2022年10月から具体的に動き始めていました。
2025年2月のart NIKKEIのインタビューによると、きっかけは、みずほFGの社員が東京藝術大学の活動を紹介した書籍『クローズアップ藝大』に関心を持ったことでした。
その後、東京藝術大学の理事を務めていた国谷裕子氏への働きかけを通じて、2022年10月に大学を訪問し、連携に向けた協議が始まりました。
当時、みずほFGでは、相次ぐシステム障害などを受けて、組織風土の改革を進めていた時期でもありました。
従来の縦割り組織や前例にとらわれず、社員が主体的に考え、行動できる企業文化を目指す中で、アーティストの持つ自由な発想や創造性に注目したことが、連携につながったと考えられます。
つまり、今回の取り組みは、単なる文化支援ではなく、企業の組織文化を変革し、新しい価値を生み出す人材を育てるという経営課題にもつながっていたことがわかります。
アートを活用した新しい価値の創出
今回の連携で掲げたコンセプトは、「アートでもっと元気に」「アートをもっと身近に」「アートの力で変わりたい」の3つです。
東京藝術大学が持つ創造性や表現力と、みずほFGが持つ金融機能や企業・地域とのネットワークを組み合わせ、社会課題の解決や新しい価値の創出を目指しています。
具体的には、アートとジェンダーに関する共同研究、地域創生、若手アーティストの支援、社員教育など、複数のプロジェクトが展開されています。
興味深いのは、銀行が資金を提供するだけではなく、社員自身がプロジェクトに参加していることです。
3.アートを企業活動に取り入れる取り組み
① IR資料の表紙に東京藝大生の作品を採用
身近な取り組みとして、株主・投資家向けの決算説明会資料の表紙に、東京藝術大学の学生作品を採用しています。
学生がみずほの企業理念などをテーマに作品を制作し、経営陣にプレゼンテーションを行う仕組みです。
2023年11月から始まった取り組みで、2026年5月時点では11作品が採用されています。
金融機関の決算資料というと、数字や業績が中心ですが、その表紙にアート作品を活用するというのは、少し意外な組み合わせです。
学生にとっては作品を社会に発信する機会となり、企業にとっては自社の理念を新しい視点から表現する機会にもなっています。
② アートとジェンダーに関する共同研究
2023年からは、東京藝術大学のキュレーション教育研究センター(CCS)と共同で「アートとジェンダー」に関する研究も進めています。
女性の社会進出や芸術活動におけるジェンダーの問題、子どもを取り巻く環境などをテーマに、研究会やワークショップを実施しています。
2025年7月には、研究成果の一つとして、洋画家の池口史子と現代美術作家の碓井ゆいによる展覧会「夜明けの荒野を走って―池口史子×碓井ゆい展」が、東京・四谷の美術愛住館で開催されました。
研究だけで終わらせず、実際の展覧会を通じて社会へ発信している点が特徴です。
③ 若手アーティストの企画を社員が支援
個人的に最も興味深かったのが、東京藝大の「I LOVE YOU」プロジェクトです。
みずほFGとCCSは、2024年度から、卒業生・修了生による社会課題をテーマにしたアート企画を支援しています。
2024年度は8件、2025年度は6件の企画が採択され、2026年度も公募が実施されています。
特徴的なのは、助成金を提供するだけでなく、みずほFGの社員が「みずほソーシャルメンター」として、企画の実現まで伴走することです。
プロジェクトマネジメント、広報活動、イベント運営、関係者との調整など、企業で培ったビジネススキルを活用してアーティストを支援しています。
アーティストには優れた発想や表現力があっても、それを社会で実現するためには、企画・予算・運営など、別の専門性が必要になることがあります。
そうした部分を企業の社員が支えるというのは、アートとビジネスの新しい関係として参考になる取り組みだと感じました。
4.銀行店舗を活用した地域創生
もう一つ注目したいのが、福島県会津地域で進められている「会津プロジェクト」です。
みずほ銀行会津支店をモデル店舗として、東京藝術大学や地元の美術館・文化団体と連携し、アートを通じた地域活性化や人材育成に取り組んでいます。
銀行員が地域の文化や歴史を学び、アーティストや住民と交流しながら、銀行が地域にどのような役割を果たせるのかを考える活動です。
2025年12月には、会津本郷焼の器を使いながら、高校生や地域住民が交流する企画も実施されています。
銀行は本来、お金を預けたり借りたりする場所ですが、そこに文化的な活動を取り入れることで、地域住民との新たな接点をつくろうとしています。
みずほFGは、将来的にこうした取り組みの成果やノウハウを全国の地方支店へ展開することも構想しています。
地域の金融機関が、金融サービスの提供に加えて、地域の文化や人をつなぐ役割を担うという考え方は、地方創生の一つのモデルになるかもしれません。
5.2026年にはニューヨークにも展開
2026年7月17日には、東京藝大アートフェスの受賞作品をニューヨークの米州みずほのオフィスで展示するイベントが開催されました。
「みずほ賞」と「学長賞」の受賞アーティスト2名がニューヨークに招待され、現地の社員やアート関係者との交流も行われています。
さらに、みずほ賞を受賞した森惠海さんのガラス作品《ただよい、纏う》が、「みずほアートコレクション」の第1号作品として米州みずほに収蔵されました。
2023年に始まった東京藝術大学との連携が、約3年で海外での作品発表や作品収蔵まで発展したことになります。
日本の金融グループが持つ海外ネットワークを、若手アーティストの国際的な活動支援に活用した事例として注目できそうです。
6.金融機関はなぜアートに取り組むのか
ここまでの取り組みを整理すると、みずほFGがアートを活用する目的は、一つではないことがわかります。
まず、若手アーティストへの支援や地域の文化活動への参加といった、社会貢献としての役割があります。
次に、社員がアーティストと共同作業をすることで、新しい発想に触れたり、既存の業務とは異なる経験を得たりする人材育成の側面もあります。
さらに、銀行店舗での展示や地域交流などを通じて、顧客や地域社会との関係を深める効果も期待できます。
こうした活動は、企業のブランド価値や社員のエンゲージメント向上につながる可能性があります。
一方で、現時点の公開情報からは、アートへの投資が具体的にどの程度の売上や利益につながっているのかまでは確認できませんでした。
アートを企業活動に取り入れることによる価値を、今後どのように測定し、評価していくのかも興味深い点です。
7.まとめ|メガバンクのアートへの取り組みが広がっている
前回ご紹介したMUFGの工芸プロジェクトと、今回のみずほFGの取り組みを比較すると、それぞれに異なる特徴があります。
MUFGは、若手工芸作家の育成や作品の展示・販売を通じて、日本の工芸文化を次の世代や市場につなげようとしています。
一方、みずほFGは、東京藝術大学との連携を軸に、社員教育、地域創生、社会課題の解決、若手アーティストの活動支援など、企業活動そのものにアートを取り入れています。
さらに、SMBCグループも「ART & BUSINESS AWARD 2025」のアートコラボレーション部門でファイナリストに選ばれており、大手メガバンク各社がアートに力を入れている状況が見えてきました。
従来、金融機関による文化支援といえば、美術館への協賛や芸術活動への寄付などをイメージしていました。
しかし、今回調べてみると、金融機関が持つ資金力だけでなく、社員のビジネススキル、企業とのネットワーク、店舗や海外拠点なども、アートの発展に活用され始めていることがわかります。
これまで文化支援として捉えられていた活動が、企業の経営戦略や事業活動の一部へと広がっているように感じます。
アートの価値をどのように社会や経済につなげていくのか。
金融機関とアートの関係は、今後も注目していきたいテーマです。
ArtTech Consultingの取り組み
ArtTech Consultingでは、IT・金融分野で培った知識や経験を活かし、アートとビジネスを組み合わせた新しい価値創出の可能性について調査・研究を進めています。
現在は、美術館・博物館の運営やDXに関するフィールドワークに加え、企業によるアート活用、文化施設と地域経済の関係などについても研究を広げています。
今回のみずほFGの事例のように、アートの専門性と企業のビジネススキルを組み合わせることで、これまでにない新しい事業やサービスが生まれる可能性があると考えています。
今後も、アートとIT・ビジネスの接点に注目し、国内外の事例を調査・発信していきたいと思います。
参考情報
※本記事は2026年10月時点の公開情報をもとに作成しています。



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