ArtTechトレンド|銀行がアートの展示空間に―SMBCグループが進めるアートとビジネスの共創

前回までの記事では、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)の工芸支援プロジェクトと、みずほフィナンシャルグループ(みずほFG)による東京藝術大学との連携についてご紹介しました。
今回は、メガバンクのアートへの取り組みの第3弾として、三井住友フィナンシャルグループ(以下、SMBCグループ)の事例をご紹介します。
きっかけとなったのは、前回と同じく経済産業省が2025年に創設した「ART & BUSINESS AWARD 2025」です。
SMBCグループは「SMBCグループのアートへの取り組み」で、アートコラボレーション部門のファイナリストに選ばれています。
調べていくと、銀行の本部ビルを利用した現代アート展や、国際アートフェア「Tokyo Gendai」への協賛、銀行店舗での作品展示、若手アーティストの支援など、多様な取り組みが行われていました。
特に興味深かったのは、銀行が持つ施設や顧客ネットワークを活用して、アートの鑑賞機会や市場との接点をつくっていることです。
1.ART & BUSINESS AWARD 2025でファイナリストに選出
「ART & BUSINESS AWARD」は、経済産業省が企業とアートの共創による経済的価値の創出を評価するために創設した表彰制度です。
2025年度は5つのカテゴリーで審査が行われ、150件を超える応募がありました。
SMBCグループがファイナリストに選ばれたのは「アートコラボレーション」部門です。
この部門は、アートやアーティストとの共創を通じて、既存事業の高度化や新たな経済的価値を生み出した企業・プロジェクトを評価するものです。
今回のSMBCグループの選出について、個別の審査内容までは公開されていませんが、長年にわたるアート関連の活動や、外部のアーティスト、コレクター、アート団体との連携が評価の対象になったと考えられます。
それでは、具体的にどのような活動をしているのでしょうか。
2.銀行の本部ビルを美術館のように活用する「SMBC ART HQ」
まず注目したいのが「SMBC ART HQ」です。
東京・丸の内にある三井住友銀行東館1階の「アース・ガーデン」を会場に、企業経営者やコレクターが所有する現代アート作品を一般公開する取り組みです。
2022年1月に第1回が開催され、これまでに次のような展覧会が実施されています。
第1回:SMBC meets Contemporary Art(2022年)
ミスミグループ創業者・田口弘氏のタグチアートコレクションから18点を展示。
キース・ヘリング、ジュリアン・オピー、宮島達男など、国内外の著名な現代アーティストの作品が紹介されました。
第2回:Portraits―大林コレクション展(2023年)
大林組会長で現代アートコレクターとしても知られる大林剛郎氏のコレクションから33点、SMBCコレクションから3点を展示。
杉本博司、シンディ・シャーマン、村上隆、加藤泉、近藤亜樹などの作品が紹介されました。
第3回:AWATA COLLECTION 婁正綱展(2025年)
丸亀製麺などを展開するトリドールホールディングスの経営者・粟田貴也氏のコレクションから、中国出身のアーティスト、婁正綱(ろう・せいこう)の作品約15点を展示しました。
いずれも一般公開され、入場無料で鑑賞できる展覧会です。
銀行の本部ビルにこれだけの現代アート作品が展示されているというのは、なかなか興味深い取り組みです。
企業の持つ空間とネットワークを活用
一般的な美術館は、作品の収集・保存、展覧会の企画運営などに多くの費用をかけています。
一方、SMBC ART HQでは、銀行が既に保有している施設を活用し、外部コレクターの作品を借りて展覧会を開催しています。
もちろん、作品の輸送や保険、展示設計などの費用は必要ですが、展示施設やすべての作品を新たに取得する必要はありません。
また、銀行が持つ企業経営者や富裕層とのネットワークも、こうした企画を実現するうえで重要な役割を果たしていると考えられます。
金融機関が持つ既存の経営資源を、文化活動のためのインフラとして活用している事例といえそうです。
3.国際アートフェア「Tokyo Gendai」を支援
SMBCグループのもう一つの大きな取り組みが、国際アートフェア「Tokyo Gendai」への協賛です。
Tokyo Gendaiは、国内外のギャラリーが集まり、現代アート作品の展示や販売を行う国際的なアートフェアです。

(2026年9月開催時に撮影した会場内のアート作品)
SMBCグループは2023年の第1回から2026年の第4回まで、4年連続でプリンシパルパートナーを務めています。
2026年9月11日から13日までパシフィコ横浜で開催された第4回にも、継続して参加しました。
ここで興味深いのは、これまでご紹介してきた文化支援とは少し異なる点です。
Tokyo Gendaiには、アーティストやギャラリー関係者だけでなく、作品を購入する国内外
のコレクターや企業経営者なども集まります。
つまり、単にアート鑑賞の機会を提供するだけではなく、実際に作品が売買されるアート市場に関わっていることになります。
SMBCグループは、Tokyo Gendaiの公式サイトでも、アートに関心を持つ顧客を支援するとともに、日本のアートマーケットの成長や文化的な魅力の海外発信に貢献する方針を示しています。
金融機関とアート市場の関係
金融機関には、資産運用や資産承継などを通じて、企業経営者や富裕層と長期的な関係を築くという特徴があります。
一方、アート作品の購入やコレクション活動にも、こうした顧客層が関わっています。
そのため、国際アートフェアへの参加は、企業のブランド価値向上だけでなく、顧客との関係を深めたり、新しい顧客接点をつくったりする機会にもなり得ます。
もっとも、SMBCグループがアートフェアへの協賛によって、どの程度の新規顧客や収益を獲得したのかは公開されていません。
直接的な金融収益との関係は確認できないものの、金融機関とアート市場の間には、一定の親和性があると考えられます。
4.銀行店舗を現代アートの展示空間に
SMBCグループでは、SMBC信託銀行もアートを活用した取り組みを進めています。
SMBCグループのアート活動は、なぜ始まったのか
実は、SMBC信託銀行によるアートの取り組みは、2019年の「アートブランチ」より前から始まっていました。
2024年11月のSMBCグループのインタビューによると、きっかけは本社移転に伴う応接スペースの活用でした。
富裕層の顧客が訪れる応接室に、単に著名なアーティストの作品を飾るのではなく、若手アーティストの作品を展示することで、顧客への新しい体験の提供と作家の育成を両立できないかと考えたのです。
その後、2019年には日本橋支店で「アートブランチ」を開始しました。
当時のSMBC信託銀行副社長・野田浩一氏は、Forbes JAPANのインタビューで、金融業界では商品やサービスによる差別化が難しく、アートを活用したブランディングや顧客との関係構築を重視していると説明しています。
実際に、作品の展示をきっかけに顧客との会話が生まれ、趣味や価値観を知る機会にもなったそうです。
一方、2022年にSMBCグループとして開始した「SMBC ART HQ」では、企業の行動指針である「先進性と独創性」とアートを結びつけ、顧客や社員の創造性を刺激することを目的に掲げています。
つまり、SMBCグループのアート活動は、顧客体験や企業ブランドの向上、若手作家の育成、社員の創造性向上など、複数の経営目的に活用されていることがわかります。
① PRESTIA「アートブランチ」
2019年9月、SMBC信託銀行は日本橋支店で「アートブランチ」を開始しました。
銀行店舗内に現代アート作品を展示し、来店した顧客に特別な体験を提供する取り組みです。
参加したアーティストには、小松美羽、名和晃平、桑田卓郎、舘鼻則孝などが含まれています。
通常、銀行の店舗といえば、預金や資産運用などの金融相談をする場所というイメージがあります。
そこに現代アート作品を展示することで、顧客との会話や新しい体験を生み出そうとしています。
金融商品そのものでは差別化しにくい中で、アートを活用して顧客体験の質を高めるという発想です。
なお、SMBC信託銀行は美術品の販売や仲介を行わないことを明示しています。
あくまで金融サービスに付随する顧客体験の向上や文化支援を目的とした取り組みです。
② 若手作家の支援「アートブランチNEXT」
2021年11月には、次世代アーティストの支援を目的とした「アートブランチNEXT」も開始しました。
大阪芸術大学と連携し、現役学生や教授の作品を全国17店舗に展示する取り組みです。
さらに、オンライン上でも作品や解説動画を鑑賞できる仕組みを用意しています。
当初は2年間の展開予定として発表された事業で、現在も公式サイトには作品紹介が掲載されています。
こちらは著名なアーティストの作品を展示するだけでなく、若手アーティストの発表機会を増やすという側面があります。
全国に店舗を持つ金融機関だからこそ実現できる活動といえそうです。
5.2026年にはヘラルボニーとの連携も拡大
2026年には、障害のあるアーティストの作品を活用した事業を展開する「ヘラルボニー」との連携にも進展がありました。
SMBCグループは、国際アートアワード「HERALBONY Art Prize」の展示会場を2024年から提供しており、2026年にはゴールドパートナーとして参画しています。
2026年5月30日から6月27日には、三井住友銀行東館アース・ガーデンで、受賞作品など62点を紹介する展覧会が開催されました。
さらに、2026年には新しく「SMBCグループ賞」も設けられました。
受賞したのは、今村聖氏の《ぼくの食べた料理たち》という作品です。
日々の食事をアイロンビーズで表現した作品で、SMBCグループは社内アンケートでの反応なども参考に選定しました。
ヘラルボニーの企業賞では、受賞作品を各企業の商品やサービスなどに活用することも予定されています。
SMBCグループ賞の作品が具体的にどの事業で採用されるかは、現時点では確認できませんでしたが、単なる展示協賛から、企業とアーティストの共創へと展開する可能性が感じられます。
地域や子どもたちとの共創も
2026年9月23日から10月2日には、同じアース・ガーデンで「ひらく|Éclosion―石田延命所と子どもたち」という展覧会も開催されました。
廃材などを使って制作するアーティスト・石田延命所と子どもたちが共同制作した「音のなる神輿」を中心に、資源の循環や物を大切に使うことについて考える展示です。
これは、富裕層やアートコレクター向けの活動とは異なり、地域の子どもたちや一般市民に向けた文化活動です。
SMBCグループが、現代アート市場との関係だけでなく、地域や教育との接点も広げていることがわかります。
6.瀬戸内国際芸術祭では社員も参加
2025年の瀬戸内国際芸術祭では、三井住友銀行が芸術祭パートナーとして参加しています。
夏・秋会期には、合計45名の社員が「SMBC企業ボランティアツアー」に参加しました。
社員は直島のベネッセハウス ミュージアムや直島新美術館などを見学したほか、芸術祭の運営を支える「こえび隊」としてボランティア活動も行っています。
さらに、大島や男木島などを訪問し、地域の歴史や社会課題について学んでいます。
こうした活動は、直接的に銀行の売上を増やすものではありませんが、社員が普段の業務とは異なる環境に身を置き、地域や社会課題について考える機会になっています。
アートを通じた社員教育や、企業としての社会的価値創造という側面も見えてきます。
7.SMBCグループはなぜアートに力を入れるのか
ここまでの活動を整理すると、SMBCグループがアートに取り組む目的は、大きく3つに分けられると考えられます。
① 企業のブランド価値と顧客体験の向上
銀行の本部ビルや店舗に質の高いアートを取り入れることで、企業のイメージ向上や顧客との関係構築を目指しています。
② アート市場やアーティストの支援
Tokyo Gendaiへの協賛、コレクターの作品展示、若手アーティストの発表機会の提供などを通じて、アート市場の発展に関わっています。
③ 社会貢献と社員教育
ヘラルボニーとの連携や芸術祭への社員参加を通じて、社会課題の理解や多様な価値観に触れる機会を創出しています。
これらの活動の特徴は、金融機関の持つ施設や顧客ネットワーク、社員など、既存の経営資源を活用していることです。
一方で、アート活動によるブランド価値の向上や顧客獲得などについて、具体的な経済効果を定量的に確認できるデータは限られています。
企業によるアート活動を今後さらに広げていくためには、文化的・社会的価値に加えて、企業活動としての成果をどのように評価するのかも重要になると思います。
8.まとめ|メガバンク3社のアート活用を比較して
今回、MUFG、みずほFG、SMBCグループの3社について調べてみました。
同じメガバンクでも、アートへの取り組みにはそれぞれ異なる特徴があります。
MUFGは、工芸作家の育成や作品の展示・販売を通じて、日本の工芸文化と市場を支援しています。
みずほFGは、東京藝術大学との包括連携を軸に、社員教育、地域創生、若手アーティストの企画支援などに取り組んでいます。
そしてSMBCグループは、銀行が持つ施設や顧客ネットワークを活用し、現代アートの展示やアート市場との連携を進めています。
いずれも、従来の企業メセナや文化活動への寄付・協賛だけではなく、企業自身の経営資源をアートの発展に活用している点が共通しています。
特にSMBCグループの事例では、銀行の本部ビルを展示空間に変えたり、企業経営者のコレクションを一般公開したりする仕組みが興味深いと感じました。
アートの専門家や作品だけではなく、企業が持つ場所やネットワークも、新しい文化的価値を生み出すための資源になるということです。
また、金融機関にとっては、富裕層顧客との関係構築や企業ブランドの向上にもつながる可能性があります。
もっとも、現時点ではアートへの投資と金融事業の収益との関係が、必ずしも明確になっているわけではありません。
今後、こうした活動がどのような経済的価値を生み出し、持続的な事業モデルとして発展していくのか、引き続き注目していきたいと思います。
ArtTech Consultingの取り組み
これまでメガバンク3社の取り組みを調べてきましたが、金融機関においてアートは、文化支援にとどまらず、企業戦略や人材育成、顧客体験など、幅広い領域に活用され始めていることがわかりました。
また、金融分野では、デザイン思考や生成AIを活用し、従来とは異なる視点からサービスや仕組みを設計する可能性も広がっています。
ArtTech Consultingでは、こうした金融・アート・デザイン・IT・AIの接点に、新しい事業機会があるのではないかと考えています。
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参考情報
※本記事は2026年10月時点の公開情報をもとに作成しています。



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