現場レポート|アートを通じて里山と食を楽しむ―「緑と道の美術展 in 黒川 2026」

2026年11月1日、神奈川県川崎市麻生区の黒川地域で開催されている「緑と道の美術展 in 黒川 2026」を訪問しました。
これまでさまざまな美術館や芸術祭を巡ってきましたが、今回は少し違った視点から、アートとともに里山の自然や地域の食を楽しむフィールドワークとなりました。
1.緑と道の美術展の概要
「緑と道の美術展 in 黒川」は、川崎市麻生区黒川の里山を舞台として開催される屋外美術展です。
2016年に始まり、今回で11回目を迎えます。2026年は11月1日から30日まで開催され、25名の作家による彫刻やインスタレーションなどが、緑地や農地周辺に展示されています。
開催概要
開催期間:2026年11月1日~11月30日
会場:川崎市麻生区黒川地域
参加作家:25名
入場料:無料
主催:黒川緑地管理協議会、緑と道の美術展出品作家実行委員会
本展は、地域の緑地管理組織と出品作家による実行委員会が主催し、川崎市や地域団体、大学、企業などが協力・支援しています。
黒川地域は、多摩丘陵の自然が残る里地里山で、2015年には環境省の「生物多様性保全上重要な里地里山」に選定されています。
都心からそれほど離れていない場所に、このような自然環境が残されていることも特徴です。
「こと!こと?かわさき」による地域連携
今回の美術展には、川崎市と東京藝術大学が連携して進めるアートコミュニティ形成プロジェクト「こと!こと?かわさき」も、関連企画を通じて関わっています。
「こと!こと?かわさき」は、川崎市が推進する「アート・フォー・オール」の取り組みの一環として、アートを通じて人と人、人と場所をつなぎ、地域に新たな交流やコミュニティを生み出すことを目的としたプロジェクトです。
市民から公募されたアートコミュニケータ「ことラー」が、講座や実践活動を通じて、文化施設や地域のさまざまな場所で活動しています。
「緑と道の美術展」では、2025年からことラーによる散策型の対話鑑賞プログラムが実施されています。ことラーは独自のツアールートマップや案内物を制作するとともに、美術展の公式パンフレットへの関連企画の掲載にも関わってきました。
2026年も、11月22日・23日に「みる ふれる 小さな旅 おしゃべり鑑賞会」が予定されています。参加者がことラーと一緒に里山を歩き、作品について自由に感じたことを話しながら鑑賞する企画です。
作品の展示に加えて、地域を歩き、人々の交流を生み出す取り組みが行われている点も、この美術展の特徴といえます。
こと!こと?かわさき:https://kotokoto-kawasaki.com/
2.フィールドワーク
① はるひ野駅からスタート
今回の訪問のきっかけは、以前『地球の歩き方』で川崎市麻生区の里山が紹介されていたことです。
都市近郊に残る里山に興味を持っていたところ、今回の美術展を知り、実際に訪問してみることにしました。
スタート地点となる小田急多摩線「はるひ野駅」の駅前には、イベントに関連した出店があり、地図付きのパンフレットも配布されていました。

このパンフレットを参考に、住宅地から緑地、里山へと歩きながら、各所に設置された作品を鑑賞していきます。
② 里山の自然とアート作品
展示されている作品は、石、木、金属、ガラスなど、さまざまな素材を用いた彫刻やインスタレーションです。
作品の中には、樹木や地形、風景を利用したものもあり、自然環境と一体となった展示が特徴です。

今回、個人的に特に印象に残ったのは、作品単体の鑑賞以上に、作品を探しながら里山を歩く体験でした。
普段は訪れる機会の少ない雑木林や小川、農地などを歩くことで、黒川地域の自然環境を体感できたことが今回の大きな収穫です。
アート作品が、地域の自然に目を向けるきっかけになっているように感じました。
散策途中には、かつて黒川の特産品であった「黒川炭」や「禅寺丸柿」を八王子方面や江戸市中へ運んでいた古道「瓜生黒川往還」を紹介する案内もありました。
黒川は、江戸時代から木炭の生産地として知られ、農業とともに地域の経済を支えてきた歴史があります。
かつて都市に燃料や農産物を供給していた里山が、現在はアートや自然散策を楽しむ場所として活用されていることも、今回の訪問で興味深く感じた点です。
③ 地元野菜の購入とカフェでの休憩
散策後は、JAセレサ川崎が運営する農産物直売所「セレサモス麻生店」に立ち寄りました。
川崎市内の農家から出荷される野菜や果物などが販売されており、今回はシイタケ、白菜、ニンジンなどの野菜や柿を購入しました。
さらに、近くにあるカフェ「ON THE HILL COFFEE(オン・ザ・ヒル コーヒー)」で休憩。
黒川の丘の上にあるカフェで、散策後のひとときを過ごしました。

今回の訪問は、作品鑑賞だけでなく、里山散策、地元農産物の購入、カフェでの休憩まで含めた、充実した地域体験となりました。
3.地域型アートイベントとしての特徴と考察
今回、特に興味深かったのは、アートイベントが地域の自然や歴史、食と結びついている点です。
一般的な美術館では、作品や展覧会の鑑賞が来館者の主な目的となります。一方、今回の美術展では、作品の設置場所を巡る過程で、里山の自然や地域の暮らしに触れられる構成となっています。
この仕組みには、次の3つの特徴があると考えられます。
① アートをきっかけとした地域資源の発見
作品を里山の各所に展示することで、普段は訪れる機会の少ない雑木林や農地などへ、人が足を運ぶきっかけを生み出しています。
また、散策途中には黒川炭や古道の歴史を紹介する案内もあり、自然環境だけでなく、地域の歴史や産業について知る機会にもなっています。
② 地域内での消費行動への接続
美術展の散策ルートは、農産物直売所や地域の飲食店などへの立ち寄りにもつながります。
今回、私自身も散策後に地元農産物を購入し、カフェを利用しました。
こうした回遊によって、文化活動が地域店舗の利用につながる可能性があります。
③ 既存の地域活動との連携
この美術展は、緑地管理に関わる組織とアーティストが共同で主催しています。
さらに、「こと!こと?かわさき」のような市民参加型プロジェクトが鑑賞プログラムを企画することで、作品の展示だけでなく、人と人が対話する機会も生み出しています。
新たな文化施設を建設するのではなく、既存の里山、地域活動、市民のネットワークを組み合わせている点が特徴です。
以前訪問した松戸市の「科学と芸術の丘」が、アーティストの活動や地域の歴史・文化の発見に重点を置いていたのに対し、今回の黒川では、里山の自然環境や地域住民の暮らしとの結びつきが、より直接的に感じられました。
なお、来場者数や地域経済への波及効果、運営費の構成などは確認できていないため、事業としての持続可能性を評価するには、さらに調査が必要です。
それでも、アートをきっかけに訪れる人に対して、自然、歴史、農業、食など複数の地域資源を結びつける仕組みは、地域活性化を考えるうえで参考になる事例だと思います。
4.まとめ
今回の「緑と道の美術展 in 黒川」は、作品の鑑賞以上に、里山の自然と地域の暮らしを体験できたことが印象に残りました。
特に、かつて黒川炭などを都市部へ運んでいた歴史ある里山を歩き、最後に地元野菜を購入してカフェで休憩するという、一連の体験が興味深いものでした。
以前から関心のあった麻生区の里山を、今回の美術展をきっかけに実際に訪れることができた点も、大きな収穫です。
アート作品は必ずしも訪問の最終目的である必要はなく、地域の魅力に触れるための入口にもなり得る。
今回のフィールドワークを通じて、その可能性を実感しました。
美術館や芸術祭の価値を、作品鑑賞や来場者数だけでなく、地域とのつながりや新たな体験を生み出すという視点から考えることも重要ではないでしょうか。
アートを通じて、これまで知らなかった地域の魅力を発見する。
今回の美術展は、そんなアートの新しい楽しみ方を感じられる機会となりました。
ArtTech Consultingについて
ArtTech Consulting(アートテックコンサルティング)は、IT・ビジネス・アートの知見を組み合わせ、新たな価値創造を目指す個人事業です。
IT営業・プロジェクトマネジメント・事業企画の経験を基盤に、アートとテクノロジーの融合、文化施設のデジタル活用、地域資源を生かした新しいビジネスの可能性を研究しています。
美術館や芸術祭、文化施設などへのフィールドワークを通じて、現場で得られた気づきや事業的な視点をブログ・レポートとして発信しています。



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